誰でもやり抜けるようになる、簡単な方法

従来のオンライン講義の特徴の一つとして、相互作用や仲間との場の共有をしたやりとりの欠如がありました。近年では、オンラインで講義を受講している仲間どうしでdiscussionをしたり、競争したりする(ゲーム性を持たせる)システムを搭載しているものもあり、これらは受講に対するモチベーションを上げることがわかってきています。

加えて、私たちの研究では、2つのグループを作成し、片方のグループでは、やるべき学習内容を少しずつに区切って小ゴールを設定し、その小ゴールの達成ごとに達成感を与えるようなプログラムを実施し、もう一つのグループでは、小ゴールなどはおかず、連続的に最後までやるような設定にした学習実験を行いました。

この2つのグループの学習内容は全く同じものです。ところが、講義を最後までやり抜ける人の率が、この2つのグループで大きく異なることが明らかになりました。全く同じ学習内容を提供しているのにもかかわらず、小ゴールを設定して、ゴール達成ごとに達成感を与えるような仕組みにしただけで、そのグループでは、大半の人が最後までやり抜いたのです。一方で、小ゴール設定をしていない通常の学習プログラムを行なったグループでは、約半数の人しかやり抜けませんでした。

脳を見れば「やり抜く力」は予測できる

やり抜く力のある人とない人、一体何が違うのでしょうか? 実は、脳構造が違う可能性が私たちの研究から示唆されました。目標達成まで努力を続けやり抜ける人は、やり抜けない人に比べて、大脳の前頭極の構造がより発達していたのです。この前頭極の構造情報を利用することで、私たちは、その人がやり抜ける人なのかどうか? を事前に高精度で予測するAIを作成することにも成功しています(特許取得)。この前頭極という場所は、前頭葉の中でも、人で最も発達している場所で、上述したようなメタ認知と関わっている他、将来を見越して今の行動を選択するような能力にも関わっている部位です。

やり抜く人とそうでない人は何が違うのか

「やり抜く力」が上がると脳構造も変わる

脳からやり抜く力が予測できてしまうなら、もうどうしようもない、と思う人もいるかもしれません。しかし、それは間違いです。脳は「可塑性」という変わる力を持っています。実際、私たちの研究でも、上述した、小ゴールを設定した学習プログラムを実施した時に最後までやり抜くことができるようになった人は、前頭極の構造も変化した(発達した)ことがわかったのです。

自粛生活についても、明確なゴール設定が行われ、それに向けて日々発表される感染者数やさまざまな数値が目に見えて減ってくれば、自分の努力が報われた気がし、モチベーションの維持につながります。自粛生活をやり抜いたときには、私たちの脳も、“やり抜ける人の脳”に変化しているのかもしれません。

ただし、脳からやり抜く力などの個人特性・能力を評価することは、レッテルはりなどにつなげても全く意味がありません。その人にあった形で能力を伸ばしていく方法を提供するための情報として利用していくべきものです。

<参考文献>
・ Chihiro Hosoda et al, “Plastic frontal pole cortex structure related to individual persistence for goal achievement” Commun Biol. 2020 Apr 28;3(1):194. doi: 10.1038/s42003-020-0930-4.
脳画像から「やり抜く力」を予測する手法を開発 - 目標の細分化が脳を変化させ達成を支援 -
Daphne Koller et al, Retention and Intention in Massive Open Online Courses: In Depth,  Educourse Review, 3 June 2013

写真=iStock.com

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。