ポストコロナは、さらに「コト消費」へ

【牛窪】2000年以降、14年と19年に2回の消費税増税が行われました。その際、いずれも日常的な支出、とくに食費と通信費をとことん抑える一方で、特別な目的や記念日にはドンとお金を使うという「メリハリ消費」が顕著になりました。

また、世代的にはバブル世代が50代になり、子育てから手が離れて「再び自分のために消費したい」という「バブルアゲイン」欲求を膨らませています。景気がある程度回復した段階では、ハレとケで言う「ハレ消費」や高額消費も、少なからず戻ってくるはずです。

ただ、この世代にインタビュー調査をしてみると、その消費欲求の対象はモノには向かっておらず、圧倒的に「旅行」でした。男性ではクルマにお金をかけたいとの声も多少見られますが、女性はモノに殆ど固執していない。ですから、新型コロナが収束して旅行需要が戻ってこないと、個人消費の継続的な伸びは相当厳しいでしょうね。

【中野】だとすると、今後も消費がモノに向かうことは、なかなかなさそうですね。

【牛窪】おそらく、「新しいモノが欲しい」という欲求は、下がり続けると思います。

新型コロナの渦中にある今は、あれほど環境配慮に尽力していたスターバックスコーヒーまでもが、一時的に紙カップやプラスチック食器利用へと切り替えました。ですが、事態が落ち着き「アフターコロナ」を迎えれば、再び海洋プラスチックごみの削減や、SDGs(持続可能な開発目標)に注目が集まり、「一つのモノを大事に使おう」という意識が強くなるはずです。フリマアプリに象徴されるように、C2Cでモノの流通は増えても、新商品購入の価値は上がらない気がします。

「付加価値のある嗜好品」だけが生き残る

脳科学者の中野信子さん
脳科学者の中野信子さん

【中野】日常で使うものは、費用は安く抑え、レンタルやシェアなどで、できるだけモノを消費しないような形になるのでしょうから、お金を使うのは、「これでないとダメ」といういわば嗜好品的な価値に対して、となる可能性がやはり高いんでしょうか。

【牛窪】ますます、付加価値が高いものしか残りにくい時代になるでしょう。

鉄道各社は、JR九州の「ななつ星in九州」の成功を受け、JR西日本が「トワイライトエクスプレス瑞風」、JR東日本が「トランスイート四季島」と、豪華クルーズトレインを世に送り出しました。いずれも、人口減少やテレワーク増で乗降客数の激減が見込まれる中、席数を大胆に減らしてスペースをゆったり取り、付加価値を上げることで単価をグッと引き上げるビジネスモデルです。

ホテルも、近年はインバウンドの増加で部屋数を増やす傾向にありましたが、その前はJRと同様、部屋を広く豪華な造りにして単価を上げる動きが目立ちました。メリハリ消費の時代には、普段使いでなく特別な消費であることを印象づけないと、得てして価格競争に巻き込まれてしまいます。

セブン&アイグループは2013年4月、「もっちりした上質な食感」を売りに、2枚で125円(当時)もする「金の食パン」を発売しました。単純計算では1枚60円以上になるので、明らかに6枚200円の食パンよりは高い。でも今後、1人・2人世帯が主流を占めるようになると、6枚入りを買っても余らせてしまい、「無駄にしちゃった」と罪悪感を覚える人が増えるでしょう。

実は同社は、当時からそれを見越していました。日本は2030~35年の間に、全人口の半数が「おひとりさま」になる(総務省予測)。そこを考えれば、いつまでも5枚、6枚入りの食パンにこだわるより、たとえ1パック当たりの価格は下がっても(200円→125円)、1パックの枚数を減らして(6枚→2枚)1枚あたりの付加価値や単価を上げ、結果的に利益率を上げるビジネスモデルのほうが「おいしい」わけです。