いい情報はみんなでシェアしたい

また2013年以降、フリマアプリに人気が集まったほか、シェアやレンタルなど、みんなで使う・分かち合うといったシェアリングエコノミー市場が急速に拡大しました。もちろん、スマホやSNS普及のほか、「より安く買いたい」「モノを所有したくない」という意識もあったでしょうが、「自分が持つモノの価値をほかの人にも伝えたい」「認めてもらいたい」という、「伝承欲求」や「承認欲求」が高まったからだとも言われます。

【中野】なるほど。おもしろいですね。

【牛窪】今の10代、20代は、男性でもお得な情報をすぐほかの人とシェアするんですよ。「お得な情報があれば、みんなで共有して幸せになりたい」という気持ちが強い。一方、上の年代の、特に男性は、お得な情報は内緒にする。「隠れ家」「オレだけが知っている」ということがステータスで、仕事上で価値を持つうえ、「ほかの人が来て混んだらイヤだから」「オレの特等席だから」という「オレだけ」欲求もあります。

マーケティングライターの牛窪 恵さんと、脳科学者の中野信子さん

【中野】わかるわかる(笑)

特に若い人の間では、所有や独占の欲求が低下しているんですね。

【牛窪】そうなんです。恋愛のプライオリティが低い理由も、一つはそこですよね。「所有する/彼氏・彼女としてステディーな関係になると、デートやプレゼントで関係性を維持するなど“メンテナンス”が必要になり、面倒」というわけです。

【中野】車も買わないし、家も買わない……。その“体験”が手に入ればいい。

東日本大震災の経験が影響したのは否めないと思います。火災や津波によって、モノが一瞬でなくなってしまうところを目の当たりにしたわけですよね。モノを所有することに対する考え方はかなり変わったのではないでしょうか。

「モノ」よりも「失われない資産」へ

【中野】今、このお話をしていて思い出したのは、在外華僑・華人に多い客家(ハッカ)系中国人やユダヤ人の教育のあり方です。彼らは資産を、モノよりも、教育につぎ込むんですよね。例えば、アメリカ・ニューヨーク州の比較的豊かな町、スカースデールで行われた調査によると、ユダヤ人家庭は非ユダヤ人家庭に比べて、1.3倍を教育費に使っています。客家系中国人にも同様の傾向があると思います。

【牛窪】それはやはり、過去の苦い経験によるものなのでしょうか?

【中野】客家系は移民が多いですし、ユダヤ人もディアスポラ(民族離散)を経験していて移民が多い。どこに行っても迫害されたり社会的排除に遭ったりする可能性がありました。何があっても換金できる資産が教育です。失われない資産として、教育を身に付けさせようという意識が働いているのでしょうね。これは「コト消費」と構造的にはよく似ているように思います。「思い出」は、失われることがない資産ですから。

東日本大震災は、モノの価値に疑問を抱かせるような出来事だったと思うんですが、感染症の場合はどちらに向かうのでしょうか? モノへの執着が強くなるのか、それとも、ますます「見えないもの」に志向するようになるのか……。