日本企業は、もっと貪欲になっていい

【中野】新型コロナショックは、日本の経済が大きく変わる契機にもなりそうですね。

【牛窪】失礼ながら、ここ数年の日本はインバウンドに頼り過ぎていた感がありました。私は財政諮問会議のレポートなどで、これまでに何度も「インバウンド消費と日本人のそれとを、きちんと分けて消費分析すべきだ」と申し上げてきました。自分自身もそうなのですが、人間は弱いもので、ラクに結果(売上目標)を達成できる値が用意されれば、ついそこに頼りたくなってしまう。そうなると、本質的な問題を見逃してしまいます。

ですが今回、くしくもインバウンド消費が激減しました。これをポジティブに捉えれば、日本人による内需を見直す、いい契機になると思います。

また、日本企業はもっと貪欲になっていいと思うのです。今回のコロナショックによるテレワークで、ピンチをチャンスに変えて急伸したビデオ会議システムは、残念ながら「Zoom」と「Google Hangouts Meet」でした。前者は、中国出身の起業家エリック・ヤン氏がシリコンバレーで起業した会社のもの、後者は言わずと知れたグーグルのシステムです。日本はこの分野で出遅れてしまいましたよね。

ただ、今回は政府の要請を受けて、シャープが不織布マスクの製造に乗り出しました。理由の一つは、普段ディスプレイパネルを製造する三重の工場が「クリーンルーム」を保有していたからだと言われます。たとえ分野は違っても、従来自社が保有していた資産を別のことに利用すれば、利益拡大も可能になる。マーケティングで「範囲の経済」と言われる考え方です。

中国の自動車メーカーがアッという間にマスク製造に乗り出せたのは、マスクの原料・ポリプロピレンが、自動車に使う防音ウールの原料と同じだったからだそうです。いま一度、社内のリソースを見回して「別の用途に活用できないか」とアイデアを膨らませてみるのもいいと思います。追い込まれたときこそ、良いアイデアが浮かぶのでは?

斬新なアイデアは切羽詰まったときに出る

【中野】そうですね。切羽詰まった状況になると判断力が上がるという研究もあります。

ちょっと笑えるんですけど、トイレを我慢している時に、賢い選択がなされやすいというデータもあるんですよ。

【牛窪】えー! そうなんですか⁉

【中野】リラックスしすぎているときには、実は人間の知的能力は発揮されにくい。ある程度の危機感がある上でしかも適度なリラックス状態があるというときに、クリエーティビティも、判断能力もアップするようなんです。今は大変な危機にありますが、こういうときに「しか」出てこない発想というのがきっとあるはずです。変革の時代を賢く生き延びたいですね。

構成=大井 明子

牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター

マーケティング会社インフィニティ代表取締役。修士(経営管理学/MBA)。2020年4月より、立教大学大学院・客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか、著書を機に流行語を広める。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者

東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)などがある。