一生懸命やるだけでは、周りはついてこない

入社5年目には米州・国内でカメラ周辺機器のマーケティングを担当する部署へ異動。それから3年後の2010年、ドイツの販売会社へ赴任を命じられる。初めての海外赴任と希望に燃えて、ドイツにあるソニーの販売会社へ。だが、そこで初めて逆境に向き合うことになった。

「それまでは猪突猛進に働いて、100%の結果を出すというのが自分のスタイルでした。一生懸命やれば報われると思っていたけれど、ドイツでは仕事に対する姿勢が日本の会社とまったく違っていたのです。長時間働くことは良しとされず、時間のリソースが限られている中でどうやってチームのアウトプットを最大に出すかということが大事。結果よりもむしろ効率性に重きを置いているチームだったので、ひたすら頑張っているだけでは評価されないのだと気づきました」

オフィスでは日本人の駐在員が10人未満、ほとんどがドイツ人という環境だった。その中でドイツ語を話せなかった川本さんにとって、コミュニケーションの壁も大きかった。

週末も仕事をし、夜中でもメールを送ったり、矢継ぎばやにリクエストを出したりしていたが、皆から反応が返ってこない。チームとしてのアウトプットも出ない状況が続き、空回りするばかり。そんなある日、ドイツ人の上司から注意を受けたという。

「そういう働き方では周りの人が付いてこないと。何が一番大事かというプライオリティを共有していく方が効率的だし、生産性もあがるというアドバイスをいただいたんです」

何もかも抱え込まず、優先順位を整理してチームと共有することで徐々にコミュニケーションの壁が改善され、仕事はやりやすくなっていく。自分自身も「無理をしない」ということを心がけるようになった。

実は赴任まもなく体調を崩した時期があった。言葉や文化の違い、長く厳しい冬の気候にも慣れず、精神的な辛さがつのる。そんなときに支えてくれたのが日本にいる家族だった。電話で相談すると、「自分の健康が一番大事だから、無理をせずに帰ってくればいい」といたわってくれる。少しずつ肩の荷が下り、週末にヨガや旅行を楽しむ心の余裕もできた。

2011年夏、ドイツ赴任から1年経ったころに、会いに来てくれた両親をベルリンのシャル ロッテンブルク宮殿(Schloss Charlottenburg)に案内したときの父との一枚
2011年夏、ドイツ赴任から1年経ったころに、会いに来てくれた両親をベルリンのシャル ロッテンブルク宮殿(Schloss Charlottenburg)に案内したときの父との一枚