悔しさをバネに2年かけて社長を説得

CELM ASIAの仲間たちとバーベキュー。「仕事を通じた出会いが大好き」と田口さん
CELM ASIAの仲間たちとバーベキュー。「仕事を通じた出会いが大好き」と田口さん

海外赴任は、家族のある人にとっては大きな決断だ。夫の仕事や子どもの学校といった気がかりから、チャンスがあっても辞退したり単身赴任を選んだりする人も少なくないだろう。

しかし、田口さんは自ら赴任を熱望し、会社に対して2年もの間、シンガポールへ行かせてくれと言い続けたという。なぜそれほどまで赴任したかったのか尋ねると、「悔しがり、だったからですよ」といたずらっぽく笑った。

10年ほど前、グローバル戦略を重視する日系企業が増え始めた頃。田口さんは、ある顧客から「海外での人材戦略は日本のコンサルティング会社には無理。だから外資の会社を使う」と言われてショックを受ける。猛烈に悔しかったそうだが、確かに現場感覚ではグローバル企業にかなわない。

「顧客がますますグローバル経営に向かっているにもかかわらず、相談してもらえなくなる。セルムの価値はなくなるのでは。そんな強烈な危機感が募り、今、海外の現場を知っていることが、今後の顧客への価値を分ける、と当時の社長に訴えました」

最初は反対していた社長も、田口さんが仕掛けたアジアの現場の顧客訪問を繰り返す中でようやく納得してくれた。念願のシンガポール赴任が決まってホッとしたとはいえ、気がかりだったのは家族の反応。ところが、単身赴任も覚悟しつつおそるおそる切り出してみると、意外なほどあっさりと“家族全員で移住”が決まった。

当時、夫はフリーのエンジニアで長女は中学2年生。聞けば、もともと2人とも「これからは広く世界を見ておくべき」と考えていたそうで、移住にはむしろ積極的なぐらいだったという。

家族の応援もあり、今は仕事に全力投球できているという田口さん。今後の目標を「切り込み隊長のように、常に新しいことに挑戦していくのが私の持ち味。アジアや日本で輝く人をたくさん生み出すことに貢献したい」と語る。

「私はたまたま入ったリクルートで仕事の楽しさを知り、そこで出会った先輩・後輩のおかげでステージが広がりました。キャリア理論に『プランド・ハプンスタンス(個人のキャリア形成は予期せぬ偶発的な出来事に大きく影響される)』という言葉がありますが、本当にその通りですね。仕事には困難もつきものですが、人と出会う喜びを糧に乗り越えていきたいと思います」

役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉
自分の命を燃やせ
「せっかく生を受けてこの世に生まれてきたからには生きる意味があるはず。その意味を考え続け、精いっぱい生きたいと思っています」

Q 愛読書
生き方』稲盛 和夫
経営学』小倉 昌男
「『生き方』からは、困難を伴う経験こそが人生を豊かにするのだと学びました。『経営学』は前例のないことに挑戦する心構えを教えてくれた本で、私のバイブルになっています」

Q 趣味
仕事を通じた出会い、ヨガ、娘と過ごすこと

文=辻村 洋子 写真=本人提供

田口 佳子(たぐち・よしこ)
CELM専務執行役員

同志社大学卒業後、リクルートを経て2001年セルムに入社。東日本マーケティング本部を統括し、大手企業を対象に人材戦略構築やHRコンサルテーションを主導する。執行役員、常務執行役員を経て14年、シンガポールに現地法人CELM ASIAを設立し代表取締役に就任。二児の母。