売り上げ重視のあまり「人」を後回しに
意欲も下がりかけていたというが、新たな挑戦の場を得たことで心機一転。リクルートで培った営業手腕を武器に多くの新規顧客を開拓し、設立6年目だったセルムを一気に成長軌道へ押し上げた。
猛烈に働きながらも、会社の成長に貢献できている実感があり「とても充実していた」と振り返る田口さん。ただ、その陰には、今も心が痛む大きな失敗もあった。
会社が急成長すれば、社員数も急いで増やさなければならない。当時のセルムには、田口さんたち営業担当者がとってきた仕事を維持管理する人材が足りず、ある時20人を一気に採用。ところが、それでも増え続ける仕事量には追いつかず、その後15人もが辞めてしまった。
「当時は、私も含めて会社は売り上げ重視でした。仕事をとってきさえすればそれでOKという考え方。後は現場に振れば回してくれるものだと勘違いしていたんです。採用した人たちを丁寧に育てるとか、働きやすい環境を整えるなんてことは後回しでした。皆がんばってくれていたのに、本当に申し訳ないことをしました」
15人の中には、ある日突然出社しなくなった人もいれば、不満をぶちまけて辞表をたたきつけた人も。上層部のメンバーは、こうした事態になって初めて「人」の大切さに気づき、自分たちの姿勢を大いに反省したという。
現在の田口さんの仕事は、会社をいかに発展させ続けるか、という経営の仕事。過去の失敗を生かし、今は時間をかけて現地スタッフの能力や意欲を伸ばすことに優先を置いている。「スタッフが常に成長できているか」「チャレンジの機会を提供できているか」を絶えず気にかけるようになった。
「加えて、人を育てるには任せることも大事だと思うようになりました。私は何でも自分でやろうとしてずっとワーカホリック気味だったんですが、それでは部下が育たないし、働き過ぎる人って周囲にプレッシャーを与えちゃうんですよね。そんな自分を変えたいと思って、いかに任せられるか、に集中しています」