仕事と育児の両立失敗から学んだこと

シンガポールの現地法人「CELM ASIA」では、チームビルディングの一環としてキッチン対決も実施
シンガポールの現地法人「CELM ASIA」では、チームビルディングの一環としてキッチン対決も実施

ワーカホリックが変わったのには、さらにもう2つの理由がある。ひとつはシンガポールに赴任して「自分よりも周りの方がよく知っている。特に現地のことは現地の人に聞くのがいちばん」と思うようになったこと。そしてもうひとつは、育児に際して「自分一人で頑張りすぎると周りに迷惑をかける」と痛感したことだった。

シンガポールへの赴任は、キャリア最大の転機になった。アジアの現場にきて、現地の人の考え方を知り、発想の違いに触れた。「スピード優先でまずはやってみる」という柔軟な姿勢も、ワークライフバランスを大切にする働き方も、田口さんにとっては驚きの連続だったという。

一方、育児では痛い失敗を経験した。長女がまだ小さかった頃、預け先で熱を出したため急きょ仕事を切り上げてお迎えに。自宅に連れ帰ったところで顧客から電話があり、緊急対応しなければならない事態に陥った。

体調不良で泣き出した長女をあやしながら、必死で電話に応対していた田口さん。だが、泣き声があまりにも大きくなったため、とうとう長女を残して家を出てしまった。早く電話を切り上げて戻らなければという焦りから、顧客にもきつい口調で決断を迫ってしまい、これが思わぬ結果を引き起こした。

「母親としても職業人としても最低ですよね。後日、そのお客様から『もうあの人とは仕事したくない』と言われてしまいました。セルムにまで悪い印象を持たれてしまって……。育児と仕事を両立するなら、何がいちばん大事かを自分の中で決めておかないと。私にとっては子どもがいちばんですから、それなら仕事をあらかじめ誰かに任せておくべきでした」

その長女も今は大学生。アイルランドで医師を目指して勉強中で、将来的には途上国での医療活動を希望しているそう。こうしたグローバルな考え方は、シンガポールへの赴任を選択した田口さんの影響もあるのではないだろうか。