賃金差別を訴える女性が増える可能性

原告の女性は19歳で旧昭和石油に事務職として入社。和文タイムや英文タイプ業務に従事してきたが、52歳の時の1985年に昭和石油とシェル石油が合併。新たな賃金制度の下で高卒男性の22歳の資格等級に格付けされた。納得できない女性は上司に抗議し、1ランク昇格したが、その後は昇格しないまま60歳定年になった。退職後、旧昭和石油は男性だけを年功的に昇給・昇格させ、女性に賃金差別をしたこと、合併後の新制度で女性が降格されたうえに、その後も男性を優遇する運用を行ったことが男女差別であるとして労基法4条違反で訴えた。

裁判で会社側は「男女の格差は勤続年数の違いから担当職務や発揮する能力が男女で異なるためであり、男女差別ではない」と主張。9年間の審理を経て一審の東京地裁は会社の主張は「到底採用することができない」として、賃金、退職金、年金の差額など約4500万円の支払いを命じた。

しかし、会社側は二審の控訴審で「原告の請求の多くは消滅時効にかかっている」と主張。東京高裁は女性であることを理由とする賃金差別(労基法4条違反)は認定したが、提訴から3年以上前の損害は消滅時効にかかっているとして賠償金を約2051万円に減額した。最高裁でも判決が維持され、会社側は賠償金を支払って解決している。

この事例を見てもわかるように裁判所が明らかな賃金差別であると認定しても、賃金請求権の消滅時効が2年であるために多くの女性たちが不利益を被ってきた。今年4月の法改正の施行で消滅時効が当分3年になるが、それでも短い。原則の5年に延長されると、差別に苦しむ女性が勇気を奮い起こして裁判で権利を主張するケースが増える可能性もある。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。