法律のポイント6つ

1.賃金請求権の消滅時効期間について2020年4月施行の改正民法と同様に5年に延長。消滅時効の起算点が客観的起算点(賃金支払日)とする
2.付加金の請求を行うことができる期間は、違反があった時から5年に延長する
3.労働者名簿、賃金台帳および解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類の保存期間は5年間に延長する
4.施行日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権について、新たな消滅時効期間を適用
5.経過措置として、労働者名簿等の保存期間、付加金の請求を行うことができる期間、賃金(退職金を除く)の請求権の消滅時効期間は、当分の間は3年間とする
6.改正法の施行5年経過後の状況を勘案して検討し、必要があるときは措置を講じる

2の付加金とは、割増賃金などを支払わない使用者に対して違反があった時から、労働者の請求によって未払金のほかに、それと同一額の支払いを裁判所が命じることができる制裁金のことだ。4は、消滅時効の適用は施行以後の「賃金支払日」となり、すべての労働者に適用されるということだ。ただし、消滅時効期間などは民法に合わせて5年とするものの、当分の間3年とし、施行後5年経過後の2025年に検討し、5年に延長するかどうかを決めることになる。

5年分で3000万円の請求

とはいえ消滅時効が延長されることは働く人にとっては朗報だ。現行の消滅時効の2年が多くの労働者に不利益をもたらしている現状もある。日本労働弁護団会長の徳住堅治弁護士はこう指摘する。

「会社を辞めてから未払い残業代を請求する人が圧倒的に多いのです。しかも裁判を起こすとなると準備に3~4カ月かかり、実質的に1年6カ月分しか請求できない。逆に言えば企業は現行の2年によって救われているといえます」

消滅時効期間が3年ないし5年に延長されると企業の支払額も増加する。一方残業代請求訴訟も増えている。「以前に比べて若い世代を中心に未払い残業代を請求する人が激増しています。1年間の請求額は1人おおむね300万円。消滅時効の2年だと600万円になります。加えて同額の付加金を請求できるので、2年だと1200万円になり、中小企業の若い人たちは退職金をもらうより残業代を請求したほうがよい、と考える人も増えています」(徳住弁護士)という。

3年に延長されると、3年間で900万円、付加金合計で1800万円。さらに5年になると付加金合計で3000万円になる。賃金支払日以降は遅延損害金年利6%、退職日以降は「賃金の確保等に関する法律」によって14.6%の遅延利息が上乗せされる。残業代未払いのリスクはこれまで以上に高くなる。