男女の賃金格差訴訟への影響は

また現行の2年の消滅時効の影響は残業代請求にとどまらない。冒頭に説明したように男女の賃金格差の是正を求める社会的機運にも影響を与えてきた。徳住弁護士はこう語る。

「これまで男女の賃金差別が裁判で争われてきました。男女間の賃金格差は、入社以降の男性と女性の不合理な差別によるキャリアの違いによって長年にわたって積み重なっていくものです。本来はこの差を過去にさかのぼって是正していくべきですが、是正しようと訴えても過去2年間の差別しか是正できません。しかも申し立てても時間が経過していると得るものも少ない。そのために多くの女性たちが訴えるかどうかを悩んできた歴史があります。時効消滅の期間が男女の賃金差別の是正を困難にする大きな障害になっています」

男女の賃金格差の是正は、世界的な大きな課題にもなっている。この3月8日は国連が定める国際女性デーだった。5日にはUNウィメンが報告書を出しているが、女性の賃金が世界的に見て男性より16%低いことが指摘されている。とくに日本はフルタイム労働者の男女の賃金格差はG7の中で最も大きく(OECD、2017年)、女性は男性より24.5%も低く、なっている。19年12月に公表された世界経済フォーラムの男女格差(ジェンダーギャップ)指数で日本は過去最低の121位。これは男女の賃金を含む経済格差も影響している。

男女の賃金差別はなぜなくならないのか

企業内の賃金構造を調査した厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、2018年の一般労働者の男性の賃金は33万7600円、女性は24万7500円。男性を100とした場合、女性は73.3と、前年から0.1ポイント格差が開いた。

賃金格差の理由として一般的には①管理職に占める女性比率が少ないこと、②男性に比べて勤続年数が短いこと――の2つが指摘されている。しかし、その背景には「女性に重要な仕事を任せられない」「子育ては女性が担うべきだ」といった偏見や先入観による差別意識も働いている。その結果、賃金差別も生まれやすい。

女性であることを理由とする賃金差別を禁じた労働基準法4条を根拠に、これまで多くの訴訟が繰り返されてきた。どの裁判も決着するまでに長期間に及ぶが、前出の徳住弁護士が言うように消滅時効が短いために賠償金が減額される判決が相次いできた。その一つの事例が「昭和シェル石油・男女賃金差別事件」(2009年1月22日、最高裁判決)だ。