風邪はすべて“疑似コロナ”とみなす

2009年にパンデミックを起こした新型インフルエンザの場合は、高熱、咳、関節・筋肉の痛みといった特徴があったので、一般診療医が検査を受けるべき人を事前にふるい分けることがある程度できました。しかしCOVID-19は、プロの医者でもふつうの風邪と区別をつけることが難しい。

それならどうしたらいいのでしょうか。

私はCOVID-19が全国的に広がってきた段階では、検査陽性者だけを隔離するなどの特別扱いをし過ぎるよりは、むしろ風邪のような軽微な症状であっても一律に「疑似コロナ」とみなして自宅療養とし、出勤や登校をさせないとするほうが合理的だし、かえって安全ではないかと考えます。検査では白黒つけられないばかりか、特別な感染症扱いをし過ぎると、感染者が感染を隠して出勤したり、医療機関の間でのたらい回しも起きかねないからです。

呼吸困難やいつもの風邪と明らかに異なる辛い症状があれば別ですが、そうでなければ、ふつうの風邪と同じように発熱や脱水に注意をしながら自宅で安静に過ごす。高齢者や基礎疾患のある人に接触しない。症状が治まってから学校や仕事に復帰する。このように考えて行動する方が混乱もしませんし、なにより感染拡大阻止には効果的でしょう。極めてシンプルな話なのです。

もちろん重症化しないように経過を見守る必要はありますが、これまで公開されたCOVID-19に関する報告をみると、感染力は強い一方で、致死率は2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)ほどは高くないようです。また幸いなことに、子どもは感染者数、重症者数ともに少なく、重症化リスクは低いことがわかってきました。無症状〜軽症ですでに治っている可能性すらあると思います。逆に大人が感染を家に持ち込むリスクのほうが大きいかもしれません。一斉休校の意味があるかどうか、この点でも疑問ですね。

外で走り回ったほうがいい

突然の一斉休校で困ったのは親御さんたちです。実家など預け先がある方はまだ良いとして、仕事を休むわけにはゆかず臨時の学童保育や児童館を利用せざるを得ない方が大半です。

学童保育については厚生労働省と文部科学省から「席の間隔を1メートル以上離して」との通知がでていますが、これも明確なエビデンスはあるのでしょうか。普段の教室に定員以上の子ども達が通ってくるわけですから消毒にも限界がありますし、接触するなという方が無理でしょう。

子どものマスク装着については賛否両論あるようです。咳などの症状があるなら当然装着すべきですが、マスクの取り扱いによっては、かえって感染を拡げるリスクがあることを覚えておいてください。たとえばマスクの表面は汚染されているので、汚いマスクを触った手で自分の顔や他の子どもの口、鼻周りを触らない、何かを食べるためにマスクを取り外したら必ず手を洗うなどの注意が必要です。小さい子どもにはちょっと難しいかもしれません。

むしろ子ども達の精神的ストレスを考えると、マスクよりも手洗いをこまめにさせた方がいいでしょう。指先だけぬらすような「手洗い」ではなく、石けんと流水をつかって指の間から手首までごしごし洗う方法を教えてあげてください。

また、学童や自宅に閉じこもっているより、換気の心配がない公園や運動場で元気に走り回って遊んだほうがいいですよね。親御さんたちの間で手洗いや換気などのルールを共有できるのであれば、お友達の家に遊びに行くのも良いでしょう。せっかく長期の休みになったのだから、親子で普段できなかったことにチャレンジしてみる機会にしてください。

構成=井手ゆきえ

木村 知(きむら・とも)
医師

1968年生まれ。医師。10年間、外科医として大学病院などに勤務した後、現在は在宅医療を中心に、多くの患者さんの診療、看取りを行っている。加えて臨床研修医指導にも従事し、後進の育成も手掛けている。医療者ならではの視点で、時事問題、政治問題についても積極的に発信。新聞・週刊誌にも多数のコメントを提供している。2024年3月8日、角川新書より最新刊『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』発刊。医学博士、臨床研修指導医、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。