3月2日、全国の小中高校の大部分が一斉休校に入りました。現時点では「春休みまで」との期限付きですが、長期的な見通しが立てられない状況に共働きの家庭の混乱が広がっています。この期間を子供たちはどのように過ごしたらいいのでしょうか。『病気は社会が引き起こす』が話題の医師、木村知さんに聞きました。

一斉休校の根拠は?

当初、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門会議が打ち出した基本方針では、小中学校の休校について「臨時休業等の適切な実施に関して都道府県等から設置者等に要請する」という記述にとどめていました。この見解が公表された2月24日時点では、行政も全国で一斉に休校するという考えはなかったのです。

医師 木村 知さん
医師 木村 知さん

ところが安倍晋三首相は2月27日、一転して「3月2日から春休みまで臨時休校を行うよう要請する」と踏み込んだ決断を下しました。しかも、3月2日に開催された国会での首相答弁によれば「この要請については直接専門家の意見をうかがったものではありません」(安倍首相)という話で、自民党幹部も寝耳に水だったようです。

そのあたりの政治的な動きはさておき、90人以上の感染者数を報告し非常事態宣言を出した北海道のような地域から感染者数が一桁の地域までが混在しているこの段階で「なぜ、全国一律に一斉休校が必要だと決断した」のでしょうか。明らかに納得できる理由があるなら、私たちも粛々と対応するでしょうに、根拠となるエビデンスは全く示されませんでした。これだけの大きな影響をもたらす決断を示すなら、何よりも科学的根拠(エビデンス)を明らかにして「○○という根拠に基づいて、一斉休校を要請する」というべきでした。

いつ、休校を解除するのか

しかも首相は「春休みまで」と一応の区切りを示しましたが、単純に「キリが良いから」としか読めません。そもそもの始めを何の根拠もなく見切り発車したために、結果的に「一斉休校を終わらせる正当な根拠」を示すことができない状況に陥ってしまいました。

仮に春休みが明けると同時に一斉休校を解除したとして、果たして本当にそれが妥当なのか誰も判断することができません。むしろ根拠無く一斉休校をやめることで「ああ、新型コロナの感染拡大もひと段落したんだな」との誤解を広めてしまい、流行の第二波を引き起こしてしまう懸念すらあります。個人的にはこの段階で全国一律休校という措置を行う必要はなかったと思います。

PCR法について、知っておくべきこと

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の主な特徴は、入院を必要とする重症から軽症、無症状まで幅が広いことです。感染初期で無症状〜軽症の場合はふつうの風邪と区別がつきません。だからこそ全例検査できる体制を早くつくって欲しいという声もありますが、これは簡単な話ではありません。

実際、3月6日から新型コロナウイルスに対するPCR法が保険適応されることになりましたが、検査を行う手技自体がウイルスを拡散してしまう危険があるため、しっかりした感染防御体制が取れない一般診療所では検査できないのです。

PCR法が100%正確な検査方法で、早期に診断がつき、肺炎に移行させない特効薬があるなら、全例検査の意味はあるかもしれませんが、まだそのような薬はありませんし、そもそもPCR検査は100%正確ではありません。また鼻やのどの奥から検体(PCR検査のための材料)を採る手技の熟練度や検体を採取する部位によっても検査結果が相当左右されるということを多くの人が知っておかねばなりません。事実1回目の検査で陰性だった方が、2回目、3回目の検査で陽性になった例が報告されています。拙著『病気は社会が引き起こす』(角川新書)でも触れましたが、感染症に「かかっていない」ことを証明するのは極めて難しいのです。

本当は感染しているのに「陰性」と判定されて普通の社会生活を送り、知らないうちに感染を拡げてしまう可能性があるわけです。これは非常に危険です。

さらにもし今、審議されている改正特別措置法案が通れば「陽性」者に対する行動制限まで課せられてしまいますね。「陽性」をたてに人権を無視した管理が無制限に行われるうえに、ますます医療現場の混乱と市中感染を拡げることになりかねません。

風邪はすべて“疑似コロナ”とみなす

2009年にパンデミックを起こした新型インフルエンザの場合は、高熱、咳、関節・筋肉の痛みといった特徴があったので、一般診療医が検査を受けるべき人を事前にふるい分けることがある程度できました。しかしCOVID-19は、プロの医者でもふつうの風邪と区別をつけることが難しい。

それならどうしたらいいのでしょうか。

私はCOVID-19が全国的に広がってきた段階では、検査陽性者だけを隔離するなどの特別扱いをし過ぎるよりは、むしろ風邪のような軽微な症状であっても一律に「疑似コロナ」とみなして自宅療養とし、出勤や登校をさせないとするほうが合理的だし、かえって安全ではないかと考えます。検査では白黒つけられないばかりか、特別な感染症扱いをし過ぎると、感染者が感染を隠して出勤したり、医療機関の間でのたらい回しも起きかねないからです。

呼吸困難やいつもの風邪と明らかに異なる辛い症状があれば別ですが、そうでなければ、ふつうの風邪と同じように発熱や脱水に注意をしながら自宅で安静に過ごす。高齢者や基礎疾患のある人に接触しない。症状が治まってから学校や仕事に復帰する。このように考えて行動する方が混乱もしませんし、なにより感染拡大阻止には効果的でしょう。極めてシンプルな話なのです。

もちろん重症化しないように経過を見守る必要はありますが、これまで公開されたCOVID-19に関する報告をみると、感染力は強い一方で、致死率は2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)ほどは高くないようです。また幸いなことに、子どもは感染者数、重症者数ともに少なく、重症化リスクは低いことがわかってきました。無症状〜軽症ですでに治っている可能性すらあると思います。逆に大人が感染を家に持ち込むリスクのほうが大きいかもしれません。一斉休校の意味があるかどうか、この点でも疑問ですね。

外で走り回ったほうがいい

突然の一斉休校で困ったのは親御さんたちです。実家など預け先がある方はまだ良いとして、仕事を休むわけにはゆかず臨時の学童保育や児童館を利用せざるを得ない方が大半です。

学童保育については厚生労働省と文部科学省から「席の間隔を1メートル以上離して」との通知がでていますが、これも明確なエビデンスはあるのでしょうか。普段の教室に定員以上の子ども達が通ってくるわけですから消毒にも限界がありますし、接触するなという方が無理でしょう。

子どものマスク装着については賛否両論あるようです。咳などの症状があるなら当然装着すべきですが、マスクの取り扱いによっては、かえって感染を拡げるリスクがあることを覚えておいてください。たとえばマスクの表面は汚染されているので、汚いマスクを触った手で自分の顔や他の子どもの口、鼻周りを触らない、何かを食べるためにマスクを取り外したら必ず手を洗うなどの注意が必要です。小さい子どもにはちょっと難しいかもしれません。

むしろ子ども達の精神的ストレスを考えると、マスクよりも手洗いをこまめにさせた方がいいでしょう。指先だけぬらすような「手洗い」ではなく、石けんと流水をつかって指の間から手首までごしごし洗う方法を教えてあげてください。

また、学童や自宅に閉じこもっているより、換気の心配がない公園や運動場で元気に走り回って遊んだほうがいいですよね。親御さんたちの間で手洗いや換気などのルールを共有できるのであれば、お友達の家に遊びに行くのも良いでしょう。せっかく長期の休みになったのだから、親子で普段できなかったことにチャレンジしてみる機会にしてください。