部下は手下でも家来でもない

よく聞くのが、まるで部下を自分の小間使いのように扱っているパターン。思いついたことを都度ごとに電話したり、自分が忘れたときのために取りあえず言っておくなど、これではまるでメモ代わりに部下を使うことになります。これでは身の回りのお世話をしてくれる操り人形は育つかもしれませんが、今後会社を成長に導く人材をとなるには程遠いですよね。それどころか、今現在進行中の仕事もチームでやっている意味がありません。

そもそも会社という組織は、一人ひとりがやるべきことに邁進まいしんすることで、いいパフォーマンスが生まれる個の集合体。チームでともに企画を運営する部下ならなおさら、アシスタントとは違いますから、本来の仕事の意義のほかに気をとられるべきではないし、ましてや上司が自分でできることまで任せてしまっては、そもそも部下の仕事に対するリスペクトがない、これもひとつのマナー違反です。

また反対に「言わなくても察してほしい」という考えで、必要なことを伝えないのもある種のマナー違反。部下は手下でも家来でもなければ、恋人でもありません。「察してほしい」という、立場を利用した受身の姿勢では、スムーズに仕事が進まないのはあたり前です。それこそ馴れ合いの中での“部下への甘え”は、行き過ぎるとパワーハラスメントにだってなりかねません。

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“丸投げ”と“任せる”のでは大違い!

さらに、みなさんはこんな経験ありませんか? たとえばまだ管理職についていない頃、企画ごと丸投げされたにもかかわらず、できてみたらすべてに対してダメ出しと修正の嵐だったこと。またたとえば現場を任されたにもかかわらず、決定権も振り幅もないまま、結果ただの伝書鳩として悩みながら企画を終わらせたこと……。

誰しもに心当たりがあるこんな苦い経験は、上司への信頼感を少なからず失わせたり、仕事への熱意を奪ったりするものだったはず。管理職になった今は反対に、部下に対しての礼儀やリスペクトを欠くことで、今度は自分たちのほうが部下にとっての“ドリームキラー”になっている可能性があるのです。

もちろん部下の意見をすべて採用する、というのではありません。ここで伝えたいのは、社会人として相手が誰であれ、仕事の礼儀がなっているかということ。

体裁としては“信頼して任せる”というスタンスをとっていても、あらかじめわかっていることを後出しで指摘したり、部下が真剣につくった案をたたき台にすることが前提であれば、それは管理職としての尊厳を欠く行為。本来マナーとは、お互いが心地よくものごとを進めるためのちょっとした気遣いや思いやりが基本にあります。つまり、自分以外の誰かに意識がきちんと向いている状態。それは相手が部下であっても同じこと。真のマナーとは、罰則があるルールとは違っていても、大人が品格をもって守るべき大切なものなのです。

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乙部 アン(おとべ・あん)
フリーエディター/執筆家

新ファッションウェブマガジン「LIV,」女性ファッション誌のフリーエディターをしながら執筆家としても活動、いくつかの連載を掛け持ちする。アメブロやnoteなどのブログでは、大人の女性に役立つファッション・仕事・サステナブル・ライフスタイル・独自の人生哲学を発信。