バイヤーが群がる注目ぶり

そして、運命の9月。小林さんの予想通り、ギフトショーで実物を見たバイヤーは、「これは売れる!」とポケトルの前に群がり、次々と受注に名乗りをあげました。とくに初期のころから熱心だったのは、東急ハンズとLOFT(ロフト)。その誠意と熱意を感じ取った小林さんは、専用の什器を作成し、売場に無料配布する決断をします。

ロフトの店頭に並ぶポケトル

販売現場の巻き込みに成功すると、社員たちの空気も徐々に変わり始めました。

「社長、やりましたね」「売場が、すごいことになってますね」

彼らの中には、小林さんが普段から言い続けていること、すなわち「枠の外に出よう!」という言葉の意味を、噛みしめていたメンバーもいたようです。

「僕たちの会社は、ステンレスボトルの分野では素人でした。でも人は往々にして、長年その業界にいればいるほど、枠の中でしか仕事を考えられなくなる。どうせ無理だろうと、つい『暗黙の自主規制』をかけてしまうんです」と小林さん。

女性のバッグは小型化している

半面、彼自身は、もともと「人と違うモノが欲しい」や「他人にどう思われても構わない」と考えるような、ひねくれ屋だったと言います。元ラガーマンでありながら、昔から裁縫やファッションが好きで、女性のトレンドにも興味があった。

だからこそ、「近年はスマホ一つで決済が行なえるなど、スマホが高機能化したことで、女性の財布やバッグが小型化しているらしい」との情報を掴んでいた小林さん。ポケトルの「超小型」の発想も、そのトレンド情報のベースがあったからこそだと言います。

彼の凄いところは、アンテナ感度だけではありません。「ペットボトル飲料を、余らせて捨てるのがもったいない」という、ほんの小さな気づきを発端に、即座に街中で観察を繰り返し、ラフスケッチを描き上げ、「9月のショーにサンプルを出展する」というマイルストーンを描いた。そして前向きな姿勢で、販売現場や社員を巻き込んでいった。

いわば“女子力”ともいえる、繊細な気づきを得た一方で、体当たりの姿勢でスピーディにどんどん現場を変える実行力を発揮する……。

もちろん、誰にでもできることではありません。でも、いずれか一方であれば、絶対に真似できないことでもない。小林さんの動きやポケトルの大ヒットからは、他の業界や企業も、学ぶことが多いのではないでしょうか。

後発の競合に負けないブランディング戦略

小林さんの頭には、次なるステップのイメージがあります。それは、日本最小ともいえる超ミニボトル「ポケトル」の、さらなるブランディング。

19年12月の国際会議で出席者に配られた、オリジナルのポケトル

これほどの大ヒット商品ともなれば当然、競合が次々と似たような商品を発売してくるのは必至。次の段階では、「ミニボトルといえば、ポケトル」とのイメージを定着させなければいけない……。彼の予測通り、業界老舗の東亜金属やインテリア雑貨の「KEYUCA(ケユカ)」(河淳)も、既に190mLのスリムなステンレスボトルを発売。今後も、後に続く企業は増えるでしょう。

だからこそ、小林さんは日本だけでなく「海外」にもポケトルのブランド名が拡がるようにと、具体的に動き始めているそうです。

日常のほんの小さな気づきからでも、ヒット商品やイノベーションが生まれることはある。しかも現代は、そのヒットがアッという間に海を渡る時代です。皆さんのちょっとした気づきが、明日の世界的なヒットにつながるかもしれません。

牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター

マーケティング会社インフィニティ代表取締役。修士(経営管理学/MBA)。2020年4月より、立教大学大学院・客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか、著書を機に流行語を広める。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。