宅急便のビジネスモデルを構築したことで知られる小倉昌男・元ヤマト運輸社長の薫陶を受けた後、ヤマトホールディングス社長、会長として経営の舵を取り、全国の宅急便センターを指導し、現場改革に尽力した瀬戸薫さん。変化の大潮流の渦中にある物流業界でどう現場改革を進めていくのか、語ってもらった。
写真提供=ヤマトホールディングス
ヤマト運輸では、「全員経営」のスローガンの下、セールスドライバーは一歩外に出れば経営者の意識を持ち、自ら考えて行動するように求められている。

「サービス第一」というたった1つのキーワード

——宅急便の成長はどのように生まれたのでしょう。

【瀬戸】私は古代中国の儒学者である孟子が残した「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」という言葉を好んで使います。天の時を得ていても、地の利がなければことは成就できず、人の和がなければさらに成就できない。宅急便が誕生した1970年代後半は、日本では核家族化が進み、親世帯から子供世帯宛てに荷物を送る需要が立ち上がってきた頃で、主婦でも簡単に荷物が送れる宅急便はその需要に見事にマッチしました。これが天の時です。そして、地域に根差した店舗に宅急便の取扱店になってもらい、翌日配達の仕組みを整備しました。これが地の利です。

——1970年代後半は、取扱店としてのコンビニのチェーンが登場した時期でもありますね。

【瀬戸】そして、孟子が人の和を最も重視したように、宅急便の生みの親である小倉昌男(ヤマト運輸元社長)が最も注力したのも人の力を活かすことでした。小倉は宅急便事業を立ち上げる際、お客様の視点に立ち、「サービスが先、利益は後」という目標を立てました。問題は、この目標をどのようにして現場のセールスドライバー(以下略してSD)に徹底させるかでした。

最前線の営業所である宅急便センターは全国に散在し、本社からコントロールするのは容易ではありません。そこで、小倉はSDたちに対し、「サービス第一」というたった1つのキーワードを示し、「あなたの担当エリアでお客様に喜んでいただけるような最大限のよいサービスを提供してください。」と明言することで、人の力を結集していったのです。セールスドライバーという呼び名にもその意味が込められていました。

——単に荷物を運ぶドライバーでないと。

【瀬戸】そうです。よいサービスを提供すれば、お客様に喜ばれ、荷物の個数が増え、エリア当たりの荷物の密度化が進み、生産性が向上して自然と利益が出る。SDはこの循環を回す役割を担う。ドライバーにセールスという名称を加えたのは、その役割を自覚させる意味がありました。

▼PRESIDENT経営者カレッジ 開講記念セミナーのお知らせ

瀬戸薫ヤマトホールディングス特別顧問がPRESIDENT経営者カレッジ開講記念セミナーに登壇。全員経営の思想をもとに「生産性向上と人材育成」について語りました。
テーマ:「生産性はこう上げ、人材はこう育てる」
開催日:1月20日 17:10~17:50

会場:一橋講堂
対象:経営者、経営の後継者、次期経営スタッフ