普通タイプに効く「返報性の法則」とは

第三は、普通の上司の場合です。人の意見をまったく聞かないわけではないけれど、柔軟とまでは言えないタイプですね。こうした上司に対しては、「返報性の法則」を使うのが効果的です。

これは、人から何かをしてもらったら報いなければならないと考える心理のこと。人間には皆、この心理があると言われています。まずは残業や休日出勤など少し無理めの頼みを聞き、相手が「借りがある」と思う状態をつくります。

その上で相談を持ちかければ、相手は聞いてあげなければという気持ちになりやすいもの。意見に耳を傾けることで、お返しをするわけです。

ちなみに、この手は第二の「話が通じない上司」には使えません。頭が固い昭和おじさんは、部下が上司の頼みを聞くのは当然だと考えています。残業や休日出勤をしても借りがあるとは思ってくれないので、お返しを期待するのはやめましょう。

「言っても仕方がない」とあきらめないで

3つのタイプについて対策をお話ししてきましたが、共通するのは意見を聞いてもらう機会をつくること。昭和おじさんの中には、その時は飲み込めなくても、定年後に理解できるようになる人もいます。

私の子どもが通っている工作教室では、定年退職した男性がボランティアで先生役を務めています。彼は現役時代、育児中の男性部下に対して「子どもが理由で仕事を休むなんて」と思っていたそうですが、今になってそういう時代なのだと理解しつつあると言っていました。

どうして自分は仕事ばかり優先して、我が子の授業参観や運動会に行かなかったのだろうと。悔やんでも時間は取り戻せないから、せめて今、ほかの子どもたちの面倒を気持ちよく見てあげたいのだと。そういう人もいるのです。

定年後にわかっても意味がないと思うかもしれませんが、おじさん本人やその時周囲にいる人には大きな影響をもたらします。言っても仕方がないと最初からあきらめず、どうか勇気をもってトライしてみてください。

もしあなたの意見が通ったら、それは若い女性の発信で職場が改善したという前例になります。今後、同じ立場の女性たちも意見を言いやすくなるでしょう。誰かから指摘されない限り、おじさんたちは自分の言動が時代遅れであることに気づきません。本人のためにも、ほかの女性たちのためにも、行動を起こしていただければと思います。

構成=辻村洋子 写真=iStock.com

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。