上司の態度が時代遅れだと思っても、面と向かっては言いにくいもの。男性学を研究する田中俊之先生が、上手に意見する方法を上司のタイプ別に教えてくれました。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Kavuto)

“昭和上司”が若い女性を下に見る理由

古い価値観をもったいわゆる“昭和上司”に物申す時、なぜか緊張してしまうという女性は多いのではないでしょうか。部下の意見に耳を傾けてくれる相手ならいいのですが、頭が固いおじさんの場合、聞く耳を持たずに一蹴したり、ひどいと怒り出したりすることもあります。これでは意見が言いにくくなるのも当然でしょう。

彼らは若い女性を下に見がちです。これは悪気なくやってしまっていることが問題なのですが、無意識の思い込みが一つの原因だと考えられます。女性の働き方に対する理解が昭和のまま、つまり「どうせ結婚や出産を機に辞めるんだろう」というところで止まっているからなのです。

そのため、若い女性を“女の子扱い”して、当然のように雑務をやらせたり、重要な仕事を任せなかったりします。また、女性は“物申さない存在”だと思っているため、意見を言われること自体に驚き、人によっては怒りを感じることさえあります。

女性にとっては、キャリアアップを考える際の妨げにもなりますから、もし下に見られていると感じたら早めの対策をしなければなりません。ただし、彼らは意識してそんな態度をとっているわけではないので、ストレートに「女の子扱いしないでください」と言っても、残念ながら意味が伝わらず、改善は望めません。

例えば、男性上司が出張でお土産を買ってきて、あなたに「配っておいて」と言ったとします。これも女の子扱いの一つですね。そんな慣習はやめさせたい、でも配りたくないとは言いにくい──。この場合、相手のタイプ別に3つの対策が考えられます。

話が通じないタイプには「やり過ごし」を

第一は、話が通じる上司の場合。「お土産を決まって女性が配るのはどうなんでしょうね」と率直に言ってみましょう。相手はあなたがそう感じていることを知らないだけなので、素直に伝えれば納得してくれる可能性が高いです。

第二は、話が通じない上司の場合。これには、お土産を配らずにただ置いておく「やり過ごし」という手があります。産業社会学の知見によれば、部下が上司に拒否の意を伝えるため、頼まれても実行せずにやり過ごすことが少なくないといいます。

あいまいな指示やただの思いつき、優先順位が低いものなどは、何回か言われてからようやく実行する。緩やかなボイコットとも言える手ですが、話が通じないのなら態度で示すしかありません。頼まれたコピーをとらずに放置しておくのも、同じくやり過ごしの一つです。

上司が放置してあるお土産に気づき、「なぜ配らないのか」と言ってきたら話し合いのチャンスです。話が通じないタイプは、相手がいきなり意見を言ってきても聞く耳を持ちませんが、自分から質問した場合は答えを求めます。この機にぜひ意見を伝えてみてください。

複数人で対応するのが得策

ただ、やり過ごしは何人かで実行することが大事です。1人でやっても、単なる反乱分子として片付けられてしまう可能性が高いので、まずは同じ意見を持つ人たちと相談してみてください。

ほかには、当の上司を避けて周囲の“話が通じる上司”に言ってみるのもおすすめです。頭が固い人に意見するのはなかなか大変ですから、まずは周りから攻めるのも賢い方法かなと思います。

1998年に出版された『OLたちの〈レジスタンス〉』という本が、当時、話題になりました。ここでいうOLとは一般職の女性のことです。この本では、仕事の優先順位を勝手につけるなどして、上司より優位に立ったOLたちの戦略を伝えていました。

男性上司から下に見られがちな女性たちの賢さや強さがわかる本ですが、彼女たちが上司に簡単に反旗をひるがえせたのは、いずれ辞める身だと思っていたからかもしれません。

結婚・出産後も働き続ける女性の場合は、退職前提で反旗をひるがえすわけにはいきませんから、昭和上司に物申す時は少し慎重になる必要があります。特に話が通じないタイプには、必ず複数人で対応するようにしましょう。

普通タイプに効く「返報性の法則」とは

第三は、普通の上司の場合です。人の意見をまったく聞かないわけではないけれど、柔軟とまでは言えないタイプですね。こうした上司に対しては、「返報性の法則」を使うのが効果的です。

これは、人から何かをしてもらったら報いなければならないと考える心理のこと。人間には皆、この心理があると言われています。まずは残業や休日出勤など少し無理めの頼みを聞き、相手が「借りがある」と思う状態をつくります。

その上で相談を持ちかければ、相手は聞いてあげなければという気持ちになりやすいもの。意見に耳を傾けることで、お返しをするわけです。

ちなみに、この手は第二の「話が通じない上司」には使えません。頭が固い昭和おじさんは、部下が上司の頼みを聞くのは当然だと考えています。残業や休日出勤をしても借りがあるとは思ってくれないので、お返しを期待するのはやめましょう。

「言っても仕方がない」とあきらめないで

3つのタイプについて対策をお話ししてきましたが、共通するのは意見を聞いてもらう機会をつくること。昭和おじさんの中には、その時は飲み込めなくても、定年後に理解できるようになる人もいます。

私の子どもが通っている工作教室では、定年退職した男性がボランティアで先生役を務めています。彼は現役時代、育児中の男性部下に対して「子どもが理由で仕事を休むなんて」と思っていたそうですが、今になってそういう時代なのだと理解しつつあると言っていました。

どうして自分は仕事ばかり優先して、我が子の授業参観や運動会に行かなかったのだろうと。悔やんでも時間は取り戻せないから、せめて今、ほかの子どもたちの面倒を気持ちよく見てあげたいのだと。そういう人もいるのです。

定年後にわかっても意味がないと思うかもしれませんが、おじさん本人やその時周囲にいる人には大きな影響をもたらします。言っても仕方がないと最初からあきらめず、どうか勇気をもってトライしてみてください。

もしあなたの意見が通ったら、それは若い女性の発信で職場が改善したという前例になります。今後、同じ立場の女性たちも意見を言いやすくなるでしょう。誰かから指摘されない限り、おじさんたちは自分の言動が時代遅れであることに気づきません。本人のためにも、ほかの女性たちのためにも、行動を起こしていただければと思います。