「好きではない男の人」が一番気を使わない

——たとえ愛があっても他人と暮らすのは容易ではないと思うのですが、同居人の条件として、ここは譲れないと考えていたポイントはありますか?

能町みね子『結婚の奴』(平凡社)

平凡な言い方になってしまうんですけど、「素が出せること」でした。本にも書いたのですが、これまで恋愛にも挑戦はしてみたんです。でも、私はそういう関係になると全く素が出せなくなってしまう。いろいろな先入観に縛られて、「こうしたほうが彼女らしい」みたいなことばっかり考えてしまう。「嫌われるかもしれない」という思いが先に立つからだと思うんですけど、今回は「嫌われるかもしれない」がないんです。むしろ「別に嫌われてもいいし」くらいの感じなので、取り繕ったり格好つけたりする必要が一切ない。

——「女友達と暮らす」という選択肢はなかったのですか?

それも考えてみたんですけど、女友達だと過剰に遠慮しあってしまう気がしました。恋愛に比べればだいぶ楽なんですけど、それでもちょっと気遣いをして疲れてしまう。「好きではない男の人」というのが、一番気を使わないんですよ。

羨望の感情も湧かない

——言われてみれば、確かにそうですね。

もちろん女友達でもいろんなパターンがありますけど、お互いにデリカシーを持ってしまうので、だんだん窮屈になってしまいそうな気がする。あと、もし向こうに彼氏や特別な関係性の人ができたときに、心が穏やかというわけにはいかない気がするんですよね。ちょっと羨ましくなっちゃうのは避けられない気がして……。

——本にも書いてらっしゃる「平凡な恋愛・結婚に対するルサンチマン」というやつですね。

そうですね。それが私の中ではきっと消えることがない。でも、ゲイの友達なら、「彼氏ができた」と言われても100%普通に「あ、よかったね」と思えるんですよ。たぶん、嫉妬や羨望の感情がほとんど生まれない。それで「同居を解消しよう」と言われちゃったら、話は変わってくるんですけど。

構成=新田 理恵

能町 みね子(のうまち・みねこ)
エッセイスト/イラストレーター

1979年生まれ。2006年に『オカマだけどOLやってます。』(竹書房)でデビュー。著書に『縁遠さん』(文春文庫)、『ときめかない日記』(幻冬舎文庫)、『結婚の奴』(幻冬舎)など。マンガ、コラムの執筆活動に加え、『久保みねヒャダこじらせナイト』(フジテレビ)など、テレビやラジオでも活躍している。