仕事も経済力もあるし、一人暮らしは気楽で快適。でも、死ぬまで独りで生活するのは何だか不安。そんな働く女性も多いはず。「結婚」の二文字が頭をよぎらなくもないが、これからフィーリングの合うパートナーを探し、関係を育み、家族になるプロセスを考えるとハードルが高い。もともと結婚願望が強ければ熱意で挑んでいけるだろうが、そうでもない場合はなおさらである。エッセイストやイラストレーターとして幅広く活躍している能町みね子さんの新刊『結婚の奴』(平凡社)が話題だ。「性的関係と恋愛感情が一切ないゲイの夫(仮)」と同居するに至るまでを綴ったもので、凝り固まった「結婚」のイメージを突き崩してくれる。

仕事と生活を立て直すために「結婚」を目指した

——結婚の奴』には、ゲイライター、サムソン高橋さん(本書では「夫(仮)」と表記)と、「結婚」と称して同居を始めるまでの過程がその時々の能町さんの心境と共に克明に記されていますね。友人未満の段階から「結婚」を視野に入れてアプローチされています。なかなかできない力技だと思うのですが、どんな想いが能町さんの背中を押したのですか?

深夜3時くらいに仕事がはかどらなかった時に「結婚したい」と思ったことですね。毎日、起きてからお昼くらいまで何もしなくて、午後1時、2時くらいになってから空腹で家を出ていたんです。それからランチを食べて、夕方くらいに少しずつ仕事を始めて。のってくるのが深夜12時くらい。そこから謎の時間帯に突入するんですよね。

エッセイスト 能町みね子さん

私は基本的に喫茶店で仕事をしているので、昼は雑音の中にいるんです。そのほうが集中できるタイプなので、深夜、静かな部屋で1人パソコンに向かっていると、「なんでこんな仕事してるんだろう」ってだんだん内省的になってきちゃって。仕事もはかどらないし、生活リズムも悪化していく。決定的なきっかけというわけではないのですが、そういう日が続いたことが理由です。