正社員への大きな影響3つ

また、同一労働同一賃金が影響を与えるのは非正社員にとどまらず、正社員の処遇や働き方にも大きな変化をもたらす可能性が高い。なぜなら非正社員の処遇が向上すれば全体の人件費は確実に増える。日本経済新聞社の大手企業の「社長100人アンケート」(2019年9月20日)によると、人件費負担が「増える」「どちらかといえば増える」と答えた企業は46.9%に上る。また、日本経済研究センターの試算によると、正社員と非正社員の格差が大きい賞与について、正社員と非正社員の所定内給与の格差と同じにした場合、経済全体の総人件費は約8.3兆円増となり、割合にして2.9%分上昇するとしている(「『同一労働同一賃金』、人件費増の圧力に」2020年1月14日公表)。

企業としては、当然、人件費が増えることを極力回避したいと考えるだろう。実際に今、正社員に起きている動きや、これから起きると予想される動きは以下の3つである。

1.非正規との格差の原因である諸手当の廃止・縮小
2.年功賃金から、年齢・勤続年数に関係のない職務・役割給への賃金制度の転換
3.昇給・昇格要件の厳格化

配偶者手当は縮小へ

諸手当については、たとえば家族手当は、支給要件は企業によって違うが、本人が世帯主であるかどうか、配偶者(妻)の収入、子どもの年齢、老親の有無などによって決まる。配偶者手当の支給要件は「年収103万円以下」という税制上の「配偶者控除」が適用される基準と同じ要件にしている企業も多い。それから外れる主婦パートには支払う必要はないが、近年では家計を支える男性契約社員やシングルマザーなども増加している。正社員と同じ家族手当の要件を満たす非正社員に支払うことはかなりの負担となる。

そのために配偶者手当などの諸手当を廃止・縮小する企業が増加するだろう。ただし、ガイドラインではそれを踏まえ、事業主が正社員と非正規社員の不合理な待遇差の相違の解消を行う際は「基本的に労使で合意することなく通常の労働者の待遇を引き下げることは、望ましい対応とはいえない」と釘を刺している。それを避けるためにたとえば既存の手当をいったん基本給に組み込み、数年かけて徐々に減らしていくことを考えている企業もある。

2の賃金制度の変更は、今まさに経団連が提唱している制度である。非正社員は職務に基づいた賃金(時給)が多いが、同じように正社員も年齢に関係なく、どんな職務・役割に就いているかで給与を決定する仕組みだ。正社員の現在の仕事内容を職務(等級)で区分し、職務等級に応じた給与を支払う。これによって正社員間だけではなく、非正社員の職務と分離することで、給与の合理的違いの説明を担保しようというものだ。

しかし、一方で年功によって自動的に給与が上がることがなくなり、固定費としての人件費を抑制することも可能になる。3の措置は、2の賃金制度の大幅な変更はしないが、従来以上に昇給・昇格の要件を厳しく制限することで人件費の圧縮を図ろうとする手法である。