企業がかかえる訴訟リスク

じつはガイドラインには家族手当(扶養手当)、住宅手当などは入っていないが、こうした生活関連手当は仕事の内容や出来不出来などの中身とは関係なく支払っている以上、正社員だけに支給し、非正社員に支給しないというのも合理性に欠ける。実際に地裁や高裁の判決でも扶養手当や住宅手当を支払うように命じる判決が出ている。

法律の施行が迫る中で、現在多くの企業が対応に追われている。もし、非正社員がこの格差はおかしいと思って会社側と争いになれば、最終的には裁判で決着することになる。ただし、今回の法改正では非正社員が「正社員との待遇差の内容や理由」などについて使用者に説明を求めたら、使用者は説明する義務があることが盛り込まれた。それでも使用者の説明に納得がいかない場合は、都道府県労働局の個別労使紛争を解決するための「調停」を求めることができる。もし使用者が十分な説明をせず、調停でも物別れに終わり、訴訟になったら裁判所から正社員との「待遇差」は不合理と判断される可能性が高くなる。

法改正に対応できていない企業が多い

ではどれだけの企業が法改正に対応できているのか。エン・ジャパンの「働き方改革法実態調査(従業員数1000人未満の企業の人事担当者)」(2020年1月15日発表)によると、「すべて対応を完了した」企業が14%、「おおむね対応を完了した」が30%。計44%にすぎない。一方、「あまり対応できていない」が35%、「まったく対応できていない」が13%もある。

この中には来年の2021年4月施行の中小企業も含まれているが、今年4月施行の対象と想定される従業員300~999人の企業では、「全て対応を完了した」「おおむね対応を完了した」企業は計37%にすぎない。「あまり対応できていない」「まったく対応できていない」の合計は54%に上る。もし、このまま4月施行を迎えると、多くの企業が訴訟リスクを抱えることになる。