安くて便利だけではヒットしない
【福永くん】僕はスマホ決済アプリの「Kyash(キャッシュ)」が来ると思います。バーチャルカードとリアルカードの2つが使えて、クレジットカードからチャージできるのでポイントの2重取りが可能。周りでは、特に女子に利用する人が増えています。
【原田】本来は、スマホ決済に移行しきれていない大人をターゲットにしたサービスのように思うけどね。ポイントの2重取りは主婦に刺さりそうだけど、大学生の間でも人気なんだね。それにしても、イマドキの大学生はクレジットカードも使うの? カードを使うのはもう少し上の世代かと思っていたよ。
【福永くん】スマホ決済はセキュリティー面で不安だっていう若者は、意外と多いですよ。だからクレジットカードを使うわけですが、決済金額やポイントなどのデータ確認にはスマホ決済が便利だから、どっちも捨てきれないジレンマがあったんだと思うんです。Kyashはそのジレンマを解消してくれるところが魅力ですね。
【原田】なるほど。ポイントのお得感に加えて、安心感と利便性を両立させた点も魅力になっているわけだ。確かに、ジレンマ解消というのはヒットするうえで大事な要素になりそうだね。
人間関係の“疲れ解消アプリ”登場
【丹羽さん】私が流行ると思っている「Tossup(トスアップ)」も、その一つかもしれないです。これは、友達を誘う時のジレンマを解消してくれる“お誘いアプリ”。飲みに誘ったり断ったりする時、LINEだと文章を考えるのが面倒じゃないですか。そっけないと思われたくないから、前文とか言い訳とかいろいろ考えなきゃいけない。これだと、そんな面倒な会話を全部スキップできるんです。
【原田】イマドキの若者は人間関係が細分化していて、かつ広くなっているからね。誘い疲れ&断り疲れをなくしたいというニーズはよくわかるよ。そこに着目したアプリが出たというのは興味深いな。
【丹羽さん】誘う時は「飲みませんか」の一言程度で済むし、断る時も参加、不参加から参加希望の却下まで、ワンタップでできちゃいます。会話始めも不参加の意思表明も、「私のこの簡素な対応は機械のせいなんです」という感じになるから気楽ですね。そもそも誘いを断るってすごくハードルが高いので、行きたくないのにOKしちゃう人も多いんですよ。
【原田】人間関係は壊したくない、でも会話に気を使うのは面倒──。トスアップは、若者によくあるジレンマを機械が解消してくれるわけだね。これは大学生はもちろん、社会人にも受けそうだな。人間関係におけるニーズをうまく捉えた商品と言えそうだね。
イマドキの若者たちは、友達とまったり過ごす空間や新体験・新感覚を与えてくれるものに魅力を感じているようです。近年は冷めた若者が増えていると言われていますが、仲間と過ごしたいという所属意識や、新しいもの・面白いものへの好奇心はまだまだ旺盛なのではないでしょうか。その一方、セキュリティーや人間関係に対しては慎重で、それに伴う不便さや面倒くささを解消してくれるものを求めている。2020年、若者をターゲットとしたモノやサービスには、こうしたニーズに応える工夫が必要になってくると思います。
構成=辻村 洋子
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。