東京都港区が、2024年度から区立中学の修学旅行の行先をシンガポールにすると発表し、あらためて修学旅行のあり方に注目が集まっている。「隠れ教育費」研究室の教育行政学者・福嶋尚子さんと公立中学校事務職員・栁澤靖明さんは、費用負担や教員への負担、教育的意義をあらためて問い直し、修学旅行の可否や内容を、見直すべき時にきているのではないかという――。
東京駅の通路いっぱいに並んで座り、先生の話を聞いている修学旅行中の生徒たち
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コロナ禍が変えた修学旅行

日本で100年以上も続いてきた修学旅行が、見直しの岐路に立っている。

日本修学旅行協会の抽出調査によると、コロナ禍が到来する前の2018年度、中学校段階では94.1%が国内、4.6%は海外で修学旅行を実施している。中学校全体では98.7%の実施率だ。

行先は、京都がトップで23.1%、続いて奈良(19.6%)、東京(10.6%)、大阪(9.2%)、千葉(9.0%)、沖縄(4.6%)、広島(3.1%)となっている。歴史学習・平和学習やレジャーランドでの観光を中心とした、こうした修学旅行のあり方は一定程度定着したものだった。

しかし、2019年度末に日本を巻き込んだコロナ禍が、修学旅行にも大きな影響を与えた。

2021年度の同調査(最新)を見ると、修学旅行の実施率は78.3%(2020年度は47.8%)となっている。感染拡大の影響で落ち込んだ実施率が、まだ完全には回復していない状況といえる。

行先も、大きく変化した。京都、奈良がそれぞれ1位(7.7%)、2位(7.0%)という順位に変化はないが、そのシェアは急落している。3位が山梨(5.9%)、続いて長野(4.7%)、三重(4.4%)、北海道(3.8%)、岩手(3.3%)となっており、修学旅行の行き先が全国に分散したことがわかる。

修学旅行で重視される活動も、平和学習や芸術鑑賞などに代わって自然・環境学習やものづくり体験、スポーツなどが増えてきた。2019年度には91.0%で実施されていた班別行動は、2021年度は31.1%まで減っている。

感染拡大の下、施設等における営業形態の変更もあって、生徒たちの自主性を尊重した従来通りの修学旅行を実施することは難しくなってきているといえる。コロナ禍収束後に、従来の修学旅行に戻す意向であるのは全体の14.6%に過ぎず、63.9%はコロナ禍の変化が今後も持続するとみている。コロナ禍が、歴史ある修学旅行に及ぼした影響は大きい。

港区立中学校はシンガポールへ

そんななか、東京都港区立中学校で2024年度に実施する修学旅行の行き先をシンガポールとする――、という報道があった。全国的に修学旅行見直しの機運があるなかで、これまでにない港区の判断が報じられ、賛否の声が上がっている。

10の区立中学校3年生760人が、保護者負担金は一人当たり7万円で据え置かれたまま、3泊5日でシンガポールに行くことができるという。区で力を入れている国際教育の一環として修学旅行を位置付ける意図から、英語が公用語であり、移動について負担が少なく、治安の良いシンガポールが選ばれた。区として5億円を投じ、この構想を実現するつもりだという。