なぜ選択肢が少ないほうが喜ばれるのか

【赤峰沙枝さん】コスメでは、私の周りで話題になっているのは「Milk Touch(ミルクタッチ)」です。韓国コスメで、日本に上陸したのは19年の11月。元祖カリスマオルチャンのホン・ヨンギちゃんがプロデュースしているので、韓国好き女子から注目が集まっています。

Milk Touchをプロデュースしたホン・ヨンギさん(写真提供=Coogee)。

【原田】コスメやファッションの分野では、韓流は相変わらず人気があるね。でも、ホン・ヨンギさんは20代後半で、沙枝ちゃんからすればだいぶ年上。日本で人気だったのも何年も前のことだと思うけど、プロデュースした商品がなぜ急に話題になったんだろう。

【赤峰沙枝さん】これは肌に優しいことで話題なんですよ。ヨンギちゃんも今はママになっているから、「家族も安心して使えるように」という思いを込めてつくったそうなんです。だからか、特にファンデはバズっています。あと、カラーバリエーションが少ないところもうれしい。韓国コスメは類似色が多すぎて選びにくいんですが、これなら迷わなくて済みそうです。

【原田】なるほど、ママがつくったものだから「肌に優しい」というイメージがあるのか。これも健康志向の一つと言えそうだね。韓国ブランドは売り出し方がうまいから、今回も日本の女の子たちのニーズをいち早く捉えたのかもしれないな。

若者に嫌われるサービスの2大要素とは

【福永くん】僕は「どんなときもWiFi」に注目しています。どこにでも持ち運べるモバイルWi-Fiで、「10GBまで」などの通信制限がなくて、海外でも使えるところがすごくいい。今、僕の周りには、就活を終えて新生活の準備を始めている人が多いんです。その中には、このサービスを検討している人もたくさんいます。

【原田】TVCMでもよく見かけるから、これはある程度普及するだろうね。手軽さを求める若者のニーズにフィットしていると思う。ただ、今年は第5世代移動通信(5G)が始まるから、役割としてはそれまでのつなぎ策になるんじゃないかな。

【福永くん】手軽さは大きなポイントだと思います。一人暮らしをして痛感したんですが、自宅にWi-Fi環境を整えるのってかなり面倒なんですよ。でも、「どんなときもWiFi」は手続きが簡単で工事もなし。月額料金も手頃だし、これがあればスマホを格安SIMに移行できるから、さらにコストを抑えられそうです。

【原田】今は品質がよくても、他社より高価だったり面倒くささが伴ったりしたら若者には嫌われる。その点、面倒なし、制限なしというのは大きな強みになるだろうね。4月から新生活を始める人、特に大学の新入生や新社会人に受けると思うよ。

チル、カフェイン需要、健康志向、優しい、手軽──。今回の座談会では、2020年のトレンドを占ううえで参考になりそうなキーワードがたくさん出てきました。印象的だったのは、若者の健康志向が思ったより進んでいること。ドリンクでもコスメでも、今の若者は「健康に害がないかどうか」からさらに一歩踏み込んで、「体にいいかどうか」にまで注目しているようです。また、短期的なものと予想されるサービスでも、「面倒くさくない」という点が魅力になって支持を集めている様子。こうした印象を醸成するには、商品・サービスの機能だけでなく、PR戦略やイメージ戦略も重要になってくるでしょう。

構成=辻村 洋子 写真=iStock.com

原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授

1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。