時間とともに効果が倍増する
これもまた書くことの効果を示す結果の1つです。しかし、どうして10倍もの差が生じるのでしょうか。手がかりとなるのが、「プライミング効果」です。
「プライミング効果」は、潜在意識によって人の行動が変わるという理論です。ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンが、著書『ファスト&スロー』で紹介し、有名になった理論ですが、じつは身近な遊びを通して誰もがその効果を経験しています。
あなたも子どものころ、「ピザ」と10回言った後、肘を指差して「ここは?」と聞いたり、聞かれたりしたことがあるのではないでしょうか。「ヒジ」だとわかっているのに、つい「ヒザ」と答えてしまい、笑い合う。小学生が大好きなあの遊びはプライミング効果の一例で、事前に印象づけられることでわかっていても間違えてしまう現象です。
もう少し専門的な心理学の研究では、あらかじめ被験者に「ライオン、ゾウ、キリン」といった単語を見せておき、「スピードの速いものを答えてください」と質問。すると、「チーター」「馬」といった答えが返ってきます。
間違ってはいませんが、世の中には「光」「新幹線」「バイク」など、動物より速いものはたくさんあります。しかし、被験者は事前の単語のインプットによって、自ら答えのイメージを「動物」に限定してしまうのです。
「ピザ」で「ヒジ」が「ヒザ」になるのも、答えのジャンルが動物に限定されてしまうのも、事前のインプットが潜在意識に働きかけ、私たちに強く影響するからです。
ネガティブなニュースに触れ続けると……
このように暗示が脳に与える力は非常に強大で、日々ネガティブなニュースに多く触れていると気分が落ち込みやすくなるという傾向も明らかになっています。逆に明確な目標を紙に書き出し、それを日々、目にしているとプライミング効果がプラスに働くわけです。
それを裏付けているのが、3%の学生の年収が10倍になったハーバード大学の調査です。脳は書くこと、書いたものを目にすることで圧倒的な刺激を受け、勝手に働き始めるのです。これは書くことで潜在意識を刺激するか、しないかの違いであり、ノートに書き記すだけで本人の行動が変わるケースは、さまざまな実験によって立証されています。
ちなみに、日記や日報を書いていて、読み返すと、あれこんなこと考えていたんだ、と思うことがあります。私たちの意識は潜在意識が97%に対して顕在意識は3%とも言われています。書くという動作でその97%の潜在意識に働きかけ、自分でも思いもかけないキーワードやメッセージが出てくるのです。
写真=iStock.com
自己肯定感アカデミー代表、トリエ代表。困難な家庭状況による複数の疾患に悩まされるなか、独学で学んだセラピー、カウンセリング、コーチングを10年以上実践し続ける。「奇跡の心理カウンセラー」と呼ばれメディア出演オファーも殺到。著書に『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』『書くだけで人生が変わる自己肯定感ノート』『自己肯定感diary 運命を変える日記』(すべてSBクリエイティブ)、『1分自己肯定感 一瞬でメンタルが強くなる33のメソッド』(マガジンハウス)、『習慣化は自己肯定感が10割』(学研プラス)などがある。