※本稿は、中島輝『書くだけで人生が変わる 自己肯定感ノート』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
手で書くことで脳が圧倒的な刺激を受ける
自己肯定感は、自分や自分の人生に「YES」と思える気持ちのことです。
自己肯定感とは、自分には生きる能力があり、幸せになるだけの価値があると確信した状態です。つまり、生きるエネルギーそのものです。
自己肯定感が高まれば、あなたはほんとうの自分になってナチュラルな状態で最高の人生を過ごすことができるでしょう。
そんな自己肯定感が高まる具体的な書き方のコツについて説明する前に、ここではまず、「書くこと」のもつ力について深く掘り下げていきたいと思います。
というのも、書くことの効果、脳に与えるポジティブな影響、行動を変化させる仕組みなどを知ることが、書くことそのものへの期待感、信頼感を高めるからです。あなたの中に、そんな知識の土台があることで、自己肯定感が高まる書き方の効果もより確実なものになっていきます。
書くことで目標達成の可能性が33%アップ
私たちは何世紀にもわたって「書く」という動作を行ってきました。しかしいま、「書く」という動作はどんどん少なくなってきました。PCなどで高速でタイプするほうが、速く書けるので効率がいいのではという考えもわかります。
そんな時代だからこそ、今、手で「書く」ことの重要性が問われています。たとえば、手で書くこと、自己肯定感、そして脳との関連性について2つの検証結果があります。
カリフォルニア・ドミニカン大学の心理学者マシュー教授が、「書くこと」と「目標を共有すること」の効果を科学的に証明しています。
単に目標を設定するだけの人と、目標を紙に書き・誰かに伝え・説明をし続けた人は、達成の可能性が33%も高いことが実証されています。ほかの研究でも、外国語の学習には手書きが効果的であるという研究結果や、「書く」ことが、学生の記憶と成績によい影響を与えたことが明らかになっています。
「目標を手で書くこと」が、なぜ「記憶力があがること」に効果的なのか。その仕組みは、「書く」という動作が、脳幹の網様体賦活系(=RAS)にある細胞を刺激するからです。
脳幹の網様体賦活系(RAS)は、脳が処理する中で、積極的に注意を向けているものを、一番重用視するというフィルターです。
「書く」という動作は、「その瞬間に積極的に注意を向けているもの」として認識されます。書くことと生産性について研究しているH・A・クラウザー氏は著書『夢は、紙に書くと現実になる!』の中で次のように記述しています。
「書く」という動作でRASが刺激されると、大脳皮質に「目覚めろ。注意を払え。細かいところまで見逃すな」という信号が送られる。
だから、目標や覚えておきたいことを紙に書くと、脳はそれを本人に深く認識させようとして、絶えず注意を呼び起こすというのです。
左右の脳のバランスがよくなる
じつは、私たちがペンをもち、紙に文章を書いているとき、脳は非常に活発に動いています。多くの研究が、考えを文章にすること、ノートに書き進めることで、右脳と左脳の両方がバランスよく使われると指摘しています。
そして、キーボードやスマホを触るのではなく、ペンをもち、手を動かすことが記憶を司る部位を刺激することも確かめられています。実際、ワシントン大学の研究では、手書きでエッセイを書いた小学生は文章の完成度が高く、読み方を習得するスピードも速いことがわかっています。
これは手で文字を書く行為によって、脳の複数の領域が同時に活性化され、学んだことを深いレベルで脳に刻み込むことができるからです。
つまり、紙に書くことがあなたの脳のもっている力を引き出してくれるのです。
書くことを習慣化すれば自己肯定感は高まる
ちなみに左脳は、読む、話す、計算するなどの言語、文字の認識や計算するという推理、論理的思考などを担当し、論理脳と呼ばれます。右脳は、映像の認識、イメージの記憶、直感・ひらめきを司り、感覚脳と呼ばれています。
そして、先ほどお伝えした「書く」ことの“3つの効果”は脳のバランスを整える効果もあるのです。
感情を吐き出し書き出す「①アウトプット効果」は主に感覚脳である右脳を使います。文章にして確認することで心の整理整頓をする「②見える化効果」は論理脳である左脳を使います。書き出したものを目で視て記憶する「③インプット効果」は、左脳と右脳を同時に使います。
“3つの効果”を引きだす書き方をすることで、左脳と右脳がバランスよく使われ、あなたの脳のバランスを整えることができます。つまり、あなたの思考や感情のバランスも整うのです。
また、脳は変化を嫌う性質があります。なぜなら、新しいことをすることで、細胞の大量のエネルギーを余分に使うのを嫌がるからです。だから、人間は変化を嫌う生き物なのです。
逆に、習慣化されたものは、日常になります。脳は変化を嫌いますから、これを崩すことはできません。
つまり、『自己肯定感ノート』を習慣化すれば、脳が勝手に自己肯定感を高め、人生を変えてくれるというわけです。
書くだけで年収が10倍に
書くことの効果を目標達成に利用し、その経過を追った長期の研究もあります。たとえば、勉強において達成したい目標や学習計画を立てたら、紙に書き、可視化します。試験に合格したければ、「◯◯の試験に合格する」と書き、1ヵ月で参考書を終わらせたければ、「○月○日までに参考書を終わらせる」と書きます。
このように目標を書き、目標達成に向けての詳しい計画を立てると、一貫性を保ちたいという人間の本能が働き、目標が現実になる確率が上がります。
その有効性については、ハーバード大学の研究チームが1979年から10年間かけて追跡調査を行った研究によっても証明されています。調査開始時、研究チームは同大学の学生たちに「目標をもっているかどうか」「目標を紙に書き出しているか」と質問しました。
すると、その回答は次のような結果になりました。
●13%の学生は「目標をもっているが、紙には書いていない」と答えた。
●3%の学生は「目標をもち、それを紙に書いている」と答えた。
優秀な学生の集まるハーバード大学でも将来に向けた明確な目標をもっていたのは、16%。そのうち紙に書き出していたのは、わずか3%でした。
10年の追跡調査の後、驚くべき結果が出ます。明らかになったのが次の2点です。
●10年後、目標を紙に書いていた3%の卒業生は、残り97%の卒業生の10倍の収入を得ていた。
時間とともに効果が倍増する
これもまた書くことの効果を示す結果の1つです。しかし、どうして10倍もの差が生じるのでしょうか。手がかりとなるのが、「プライミング効果」です。
「プライミング効果」は、潜在意識によって人の行動が変わるという理論です。ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンが、著書『ファスト&スロー』で紹介し、有名になった理論ですが、じつは身近な遊びを通して誰もがその効果を経験しています。
あなたも子どものころ、「ピザ」と10回言った後、肘を指差して「ここは?」と聞いたり、聞かれたりしたことがあるのではないでしょうか。「ヒジ」だとわかっているのに、つい「ヒザ」と答えてしまい、笑い合う。小学生が大好きなあの遊びはプライミング効果の一例で、事前に印象づけられることでわかっていても間違えてしまう現象です。
もう少し専門的な心理学の研究では、あらかじめ被験者に「ライオン、ゾウ、キリン」といった単語を見せておき、「スピードの速いものを答えてください」と質問。すると、「チーター」「馬」といった答えが返ってきます。
間違ってはいませんが、世の中には「光」「新幹線」「バイク」など、動物より速いものはたくさんあります。しかし、被験者は事前の単語のインプットによって、自ら答えのイメージを「動物」に限定してしまうのです。
「ピザ」で「ヒジ」が「ヒザ」になるのも、答えのジャンルが動物に限定されてしまうのも、事前のインプットが潜在意識に働きかけ、私たちに強く影響するからです。
ネガティブなニュースに触れ続けると……
このように暗示が脳に与える力は非常に強大で、日々ネガティブなニュースに多く触れていると気分が落ち込みやすくなるという傾向も明らかになっています。逆に明確な目標を紙に書き出し、それを日々、目にしているとプライミング効果がプラスに働くわけです。
それを裏付けているのが、3%の学生の年収が10倍になったハーバード大学の調査です。脳は書くこと、書いたものを目にすることで圧倒的な刺激を受け、勝手に働き始めるのです。これは書くことで潜在意識を刺激するか、しないかの違いであり、ノートに書き記すだけで本人の行動が変わるケースは、さまざまな実験によって立証されています。
ちなみに、日記や日報を書いていて、読み返すと、あれこんなこと考えていたんだ、と思うことがあります。私たちの意識は潜在意識が97%に対して顕在意識は3%とも言われています。書くという動作でその97%の潜在意識に働きかけ、自分でも思いもかけないキーワードやメッセージが出てくるのです。