ビジネスで教養をどう使う?

問題を解決し、新しいアイデアを生み出す

猛スピードで変化している今のビジネスシーン。これまでの知見やマニュアルに頼るだけでは、うまく物事を進められなくなっている。専門知識や特定の能力だけに頼っていれば安泰だという時代は、終わりを告げつつあるのだ。そこで必要なのが、知識量を示すのではない教養の力。

「正解のない問いについてよりよい解を探す能力や、自分とは違う他者と連携する能力をいかに発揮できるかが、ビジネスにおいてもカギとなります」

では、具体的に、ビジネスの世界でどう教養を生かしていけばいいのだろうか。「課題を解決したり、新しいアイデアを生み出す力がより求められている中で重要なのが、自分が携わっている仕事以外の世界、つまり異分野に目を向けることです」

日頃から積極的に、さまざまな分野に関心を持ち、目の前の課題を解決するときや新しいアイデアを生み出すときのヒントにする。この姿勢が大事だという。

また、自分の課題を解決するだけではなく、異分野の人と一緒にビジネスを進めていく際には「コミュニケーション能力」が求められる。ここで強調したいのが「異分野の人と」という点だ。

「コミュニケーション能力が高い人というのは、誰とでも楽しくスムーズに会話ができるといったイメージが強いかもしれません。しかしこれから必要なのは、自分と違う分野の人の考えを尊重しながら建設的に議論し、成果を生み出すことができる力。この力がある人は、会社でもチャンスをつかみやすいでしょう」

例えば「私はコンテンツづくりが仕事なので、営業のことはわかりません」「ずっと飲食業界にいるので金融には興味がなくて」というようなスタンスでは、議論が前に進まない。自ら、チャンスを逃してしまうことになるのだ。

違和感こそがビジネスチャンスに

違う世界の人との交流は、互いの視点や意見の違いなど、新たな発見をもたらす。そこで感じる「違和感」こそが新たなビジネスチャンスを生むものだ。しかし「どうしてこんなに違うのか」と大きな壁を感じることもあるだろう。その壁を取り払うには、共通の目標をはっきりさせ、「基本的にわかり合えない」ことを覚悟して臨むことが大事。

「私は国際会議に多く出席しますが、欧米人は全体を俯瞰して見るので、意見が対立しても感情的にならずに、建設的に話を進めようとします。そこに彼らの教養の底力を感じます」

現代のビジネスパーソンにとって必要な「真の教養」。身につければ、人生そのものを豊かにしてくれるはずだ。

異分野の人と建設的に交流するための5カ条
●さまざまな分野に関心を持つ
●相手の考えを尊重し耳を傾ける
●「私はわからない」は禁句
●基本的にわかり合えないと覚悟
●共通の目標を明確にする

文=工藤千秋 写真=iStock.com

藤垣 裕子(ふじがき・ゆうこ)
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授

2015~16年度、総合文化研究科副研究科長・教養学部副学部長。専門は科学技術社会論。共著に『東大教授が考えるあたらしい教養』(幻冬舎新書)。