どんなことでも、重心はどっしりとしているべし
恥ずかしながら、と前置きして鴫谷さんは言う。「系統的な学習を自発的にはやっていなくて……。自ら学んだのが、趣味の稽古事です」
着付けを学んだのをきっかけに、さまざまな日本文化に興味を持ち習い事を始めた。そして年齢を重ねるごとに、すべてに共通項があると気づく。それは体の“重心”の重要性。
「50歳近くになると体の構造に興味を持つようになって。着付け、日本舞踊、和太鼓、長唄でも、いわゆる丹田(ヘソの下あたり)に力がきちんと入っていて、それ以外は無駄な力を抜いていることが大切だとわかったのです」。姿勢を良くし、深呼吸し、使うべき筋肉を使う。これができていると効率よく体が動かせるし、おのずと健康になり、仕事のパフォーマンスも上がる。さらに体の重心が安定していれば、心の重心も安定する。どのような局面にあっても、冷静にブレずに決断できるので、リーダーにとってはマストだ。
また、いろいろな習い事をしていると、会社員、自営業、起業家など、人との出会いが豊かになる。意思決定のバランスをつかむには、会社の外の人間の意見を知ることが重要だ。最年少で20歳。若い世代からは新鮮なトピックスをインプットできる。
「今の若い人たちはこんなことを考えているんだという発見が面白い。J‐Winもそうですが、いろいろなコミュニティーに入って、今世の中で何が起こっているのかなどをキャッチしていきたいです」
仕事は義務でありミッション。「定年後に義務がなくなるとダメになってしまいそうなので(苦笑)、できる限り仕事は続けたい」と願う。それでも「趣味の延長がミッションになるなら、それもいい人生です」。
24歳 英会話。会社主催の英会話教室に入るが挫折。
20代後半 着付け、華道。
30代 長唄。着物を着たかったので。
45歳 和太鼓。五十肩に悩んだのを機に。
40代後半 あらためて着付けを学ぶとともに、これまでの趣味を総括して日本文化に傾倒。社会行動、社会哲学、技術動向など。ヨガ。人体の構造に興味を持つ。
50歳 さまざまな講演を聞く。
55歳(現在) 英会話。業務の関係から再び学び始め、とても楽しくなる。
文=東野りか 撮影=キッチンミノル
1964年生まれ。東京工業大学大学院修了後、東京ガス入社。お客さまサービス部長を経て、執行役員・IT本部業務改革検討プロジェクト部長に。2018年より現職。東京ガスiネット社長執行役員兼任。