自分の興味の範囲外にも学びがたくさんある
「私は、自分のアンテナにひっかかった本を本屋で見つけ、それを乱読するタイプ。でもそれだけではインプットする情報に偏りが出るので、講演会などに参加して今知るべき情報を取り入れてバランスを取っています」と語る鴫谷あゆみさん。
J‐Winという企業における女性活躍を推進するNPOでは、東京ガスが会員になっており、鴫谷さんも執行役員以上のネットワークに所属し、運営を担っている。女性社員を“最後のゴールまで見すえて育てる”ために、「執行役員以上」「上位管理職を目指す層」「管理職・管理職一歩手前」と職位に応じて分けた3層のネットワークで、自己研鑽と後進の育成を図っている。
「自己研鑽のための講演を検討するとき、著名な経営者、最先端の技術者など『こんな人を呼びたい、あんな人も呼びたい』と話し合いをします。ほかのメンバーの興味の対象がわかって面白いし、私の興味の範囲外の人だとしても、聞いてよかったと思うことも多く、知識が深まります」
講演のテーマはSDGs、老年学、最新のセキュリティー、経営哲学とさまざま。たとえば、ある家電量販店の社長は「会社は、急激に大きくさせると、設備も人もコントロールできなくなるから、じっくり育てることが大事」、またあるサービス会社の社長からは「競合が狙っていない顧客をターゲットにする」などと興味深い話が飛び出す。本に書かれていない新たな学びがあり、何より「じかにスピーカーの“熱意”や“思い”が伝わるのがいいですね」。
どんなことでも、重心はどっしりとしているべし
恥ずかしながら、と前置きして鴫谷さんは言う。「系統的な学習を自発的にはやっていなくて……。自ら学んだのが、趣味の稽古事です」
着付けを学んだのをきっかけに、さまざまな日本文化に興味を持ち習い事を始めた。そして年齢を重ねるごとに、すべてに共通項があると気づく。それは体の“重心”の重要性。
「50歳近くになると体の構造に興味を持つようになって。着付け、日本舞踊、和太鼓、長唄でも、いわゆる丹田(ヘソの下あたり)に力がきちんと入っていて、それ以外は無駄な力を抜いていることが大切だとわかったのです」。姿勢を良くし、深呼吸し、使うべき筋肉を使う。これができていると効率よく体が動かせるし、おのずと健康になり、仕事のパフォーマンスも上がる。さらに体の重心が安定していれば、心の重心も安定する。どのような局面にあっても、冷静にブレずに決断できるので、リーダーにとってはマストだ。
また、いろいろな習い事をしていると、会社員、自営業、起業家など、人との出会いが豊かになる。意思決定のバランスをつかむには、会社の外の人間の意見を知ることが重要だ。最年少で20歳。若い世代からは新鮮なトピックスをインプットできる。
「今の若い人たちはこんなことを考えているんだという発見が面白い。J‐Winもそうですが、いろいろなコミュニティーに入って、今世の中で何が起こっているのかなどをキャッチしていきたいです」
仕事は義務でありミッション。「定年後に義務がなくなるとダメになってしまいそうなので(苦笑)、できる限り仕事は続けたい」と願う。それでも「趣味の延長がミッションになるなら、それもいい人生です」。
24歳 英会話。会社主催の英会話教室に入るが挫折。
20代後半 着付け、華道。
30代 長唄。着物を着たかったので。
45歳 和太鼓。五十肩に悩んだのを機に。
40代後半 あらためて着付けを学ぶとともに、これまでの趣味を総括して日本文化に傾倒。社会行動、社会哲学、技術動向など。ヨガ。人体の構造に興味を持つ。
50歳 さまざまな講演を聞く。
55歳(現在) 英会話。業務の関係から再び学び始め、とても楽しくなる。