P&Gが他社に研修をする理由

【白河】もう1つアドバイスをいただきたいのですが、日本では、妻が両立支援の手厚い会社で働いている場合、他社に勤務する夫が「それだけの働きやすい環境があれば両立できるだろう」と、妻に家事育児を押しつけるケースがよく見られます。P&Gジャパンは支援制度が整っていますから、そのリソースにタダ乗りする“他社勤務の夫”もいるかもしれません。これについてはどうお考えですか?

【ベセラ】当社では男女ともベストな環境で両立できるようにしていますが、配偶者の会社も同じとは限りませんから、そうした状況は起こりうると思います。理想を言えば、全企業が同じ手厚さを備えているといいですよね。

【白河】その理想を叶えるためには、どうしたらいいのでしょう。

【ベセラ】だからこそ、私たちは他社でも研修をさせていただいているのです。皆が理解を深め、ベストな環境を追求していけば、きっと未来は変わるはずです。将来的には、業界全体、国全体で取り組んでいけるといいですね。

霞が関でも研修を!

【白河】同感です。私は政府の男女共同参画の委員でもありますので、政府の皆さんにしっかり伝えておきます。ダイバーシティ&インクルージョン研修も、ぜひ一度霞が関でやっていただきたいですね。

【ベセラ】喜んで伺います。私たちでお役に立てることがあれば、何でもオープンに対応させていただきたいと思っています。

【白河】自社だけでなく、日本全体のダイバーシティや女性活躍を底上げしていこうという姿勢に感銘を受けました。加えて、社会に対してもジェンダー平等などを発信し、広告賞「グラスライオン」(世界最大の広告賞カンヌライオンズの賞。グラスライオンは「性差別や偏見を打ち破るクリエーティブ」に与えられる)などを受賞されていますね。日本では、そうした活動をしてほんとうに利益につながるの? という発想の企業がまだまだ多いんです。

【ベセラ】そうした発信のアイデアは事業部から上がってきます。社会的に重要なメッセージを発していくことは結果的にブランドのためになるからという判断です。もちろん予算もブランドから出ます。人事やダイバーシティ&インクルージョンのための予算ではないのです。私たちのテーマは「世界を変える力、未来を育てる力」です。ダイバーシティ&インクルージョンはそうした力そのものであり、またビジネスを育てる力でもあります。今後も、自社の事業成長はもちろん、社会にもよい影響を与える形で推進していくつもりです。

【白河】国内でも、就活の画一的なヘアスタイルに疑問を投げかけたパンテーンのキャンペーン「#令和の就活ヘアをもっと自由に」が素晴らしいですよね。こうした企業の姿勢はESG投資(環境・社会・ガバナンスを考慮した投資)や、SDGs(持続可能な開発目標)の面でもよい影響をもたらしそうですね。この2つは今、日本でも注目が高まっていますが、どのように捉えていらっしゃいますか?

【ベセラ】どちらも重視しており、先ほどお伝えしたテーマの下、特にダイバーシティ&インクルージョンと環境サステナビリティに力を入れています。今後の活動も、より一層強化していく方針です。

【白河】お話を聞いて、ダイバーシティ、女性活躍の推進や発信は、事業の成長を促し企業価値を高めるものなのだとあらためて感じました。この分野の先駆者として、引き続き日本企業に刺激を与えるようお願いします。ありがとうございました。

構成=辻村洋子

白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学大学院特任教授、女性活躍ジャーナリスト

1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。