育休を取る人が増えても回る秘密
【白河】例えば育休は、制度だけでなくとりやすい風土も重要だと言われています。P&Gジャパンは女性社員が多いですから、5人のチームが一定期間4人になるといったことが頻発すると、経営的課題にもなり得ると思うのですが、どう対応されているのでしょうか。
【ベセラ】育休はすばらしい制度です。その考え方の下、当社では誰かが育休に入っても現場がスムーズに回るシステムを構築してきました。育休をとりたいという人がいたら、まずどれぐらいの期間をとりたいのか話し合い、その上で後任を置くかどうかを考えます。同時に、誰もがいつでも後任を務められるよう、普段から社員育成にも力を入れています。これがシステムとしてうまく回っているので、当社では育休が経営上のダメージになることはありません。
【白河】育休を前提としたローテーションができているのですね。でも、日本は育休が原則1年で法的には2年と比較的長いですよね。せっかく女性の活躍を推進しても、いずれ長期離脱するのでは困るという経営者も少なくありません。
【ベセラ】私の出身地であるチェコ共和国では、男性も女性も育休は3年です。もちろん日本より短い国もありますが、日本の育休が特段長いというわけではありません。私自身、子どもが生まれたらいったん仕事を離れて、家庭に時間を費やすのが自然なことだと思っていますから、長期離脱は困るという考え方自体に違和感を覚えます。
【白河】社長がそうした認識を持っていらっしゃると、社員の意識、引いては会社全体の風土にもよい影響がありますね。部下は社長が望まないことはしないですから。では、育休後はどうでしょうか。日本では、復帰後の働き方によって、職位が下がったり、重要な仕事を任されなくなったりするケースもあります。
【ベセラ】当社では、誰もがキャリアを継続しやすいよう多様な働き方を用意しています。加えて、産休に入る前と育休中には、復帰後に希望する働き方について本人と話し合います。ちなみに、チェコでは育休前と同じ仕事に戻るのが普通で、会社側が職位を下げたりすると法律違反になるんですよ。
制度をつくっただけでは機能しない
【白河】そうした産休前からの施策が育休とセットになっていると、復帰後への不安を感じずに済みますね。
【ベセラ】育休制度に限らず、システムはただつくっただけではうまく機能しません。組織にそれを受け入れ活用するカルチャーがあること、個々の社員がシステムとカルチャーを機能させるスキルを持つことが大事なのです。これは、ダイバーシティ&インクルージョンの施策すべてにおいて言えると思います。
【白河】システム、カルチャー、スキルの3つが同時に回って初めてうまくいくのだということですね。実現には組織や個人の意識が重要で、制度と数値目標だけあっても目指す姿には近づけないと。
【ベセラ】その通りです。しかし実際は、制度と数値目標をつくって社内外に広めればうまくいくと考えている企業も少なくありません。それでは、単に人事ポリシーを掲げただけに終わる可能性が高いと思います。