なぜ米国では転勤命令がないか

翻って米国では、経営に関わる立場の人を除き、雇い主が主導する転勤事例を耳目に触れることはない。日本の雇用形態は、勤務地や仕事内容が決められていない「メンバーシップ型雇用」であるのに対し、入社時点から契約書で会計や人事などといった職務が規定され、勤務地や労働時間も限定された「ジョブ型雇用」を採用しているためだ。このため、転勤という話になるのであれば、従業員と再度契約を結び直す必要が出てくる。

仮に、部署やポジションに空きが出た場合や企業側が新たな人材を求める場合には、社内で人員を募集する告知が出され、希望者は手を挙げるのが米国の主流なやり方だ。この過程で、勤務地の移動を伴うことはあるものの、あくまでも希望に基づく制度であって、会社が一方的に決められた日までに発令する人事異動とは内容が大きく異なっている。

最近でこそ揺らいでいるものの、依然として日本型雇用の象徴である終身雇用といった制度で守られていないのと同時に、成果・能力主義が国全体で根付いているため、いとも簡単に解雇される。前回記事(「災害でも会社に向かう日本人の異常な忠誠心」)で紹介したように、自宅勤務など柔軟な働き方が許容され、会社命令による転勤がない一方、米国の雇用環境がシビアであることは指摘しておきたい。

“優しい転勤制度”という可能性

ほとんどの日本企業が、人材育成や適材適所の人員配置、組織の活性化などを転勤の目的としている現状に加え、社員の雇用を守る制度が健在である以上、一部の会社が導入している転勤廃止という激変が日本全体で起こるということは、およそ考えにくい。転勤を「必要悪」と捉えつつ、政府による働き方改革が着実に進められている中、被雇用者とその家族に優しい転勤制度にしていくために、どのように改善するのが適切なのだろうか。

先の調査では、国内転勤を減らすために企業側が既に実施している施策として「現地採用社員の増加」「勤務地限定正社員の新設・増加」「出張を増やす」「テレビ会議などの活用」などの回答が挙げられている。これらは、転勤の絶対人数を減らすには確かに有効だろう。東京一極集中を是正することにも寄与しているはずだ。