現状の転勤は働き方改革に逆行している

「転勤は必須」との前提に立った場合、筆者が現在活用している「配偶者海外赴任同行休職制度」を導入する企業が拡大し、制度を海外だけでなく国内異動にも適用する策が考えられる。さらには、配偶者の転勤で退職を余儀なくされた人への再雇用制度も充実させれば、不安なく配偶者の転勤に帯同することができる人が増えるかもしれない。

国内と海外の勤務地を行き来するのが不可欠で、職場結婚も珍しくない外務省では、以前から同地域の近隣国に夫婦をそれぞれ転勤させるケースが見られた。全国規模で転勤するメディアでも、異なる会社に属する夫婦について、双方の人事部が協力し、同じ県庁所在地に勤務させるとの話を最近はよく耳にする。家を建てた途端、転勤を命じられ、忠誠心を試されたとのエピソードが頻繁に語られていた昔とは大違いだ。

仕事と家庭の両立実現を目指し、配偶者の転勤により、男性、女性問わず離職せざるを得ない現況が続くのは、働き方改革に逆行していると言わざるを得ない。企業努力に負うこと大であるのは当然のことだが、社会全体で働き方の多様性に向け、知恵を出し合う必要があるのではないか。

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小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト 元米国在住駐夫 元共同通信政治部記者

1972年生まれ。埼玉県行田市出身。慶應義塾大学卒業後、共同通信社に入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに米国に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。在米時から、駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。150人超でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道 政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。