捨てたい嫁と捨てたくない姑

「義母は、お茶の師範をやっていた関係で着物を山ほど持っているんです。春・夏・秋・冬と、季節ごとの着物を入れる大きな桐のタンスが一棹ずつ、四棹ものタンスが部屋の中に並んでいるんです。

でも3年前、80歳になったのを機に師範を引退して、お気に入りの着物以外は着なくなりました。つまりほとんどの着物がタンスの肥やしになっているということ。タンスを半分に減らすだけでも、部屋がかなり広く使えるようになるので『なんとかお願いします』と言って、義母にも了承をとっていたのですが、いざタンスを開け始めると、『これは大島紬だから……』『この帯は手描きなのよね』などと、ひとつも処分したがらないんです。

『このままタンスに入れて保管しておいても、虫に食われたり変色するだけだから、減らしましょうよ』と言っても、『注意して保管しておけば大丈夫』の一点張り。

『少なくとも3年は着ていないじゃないですか』と言っても『これからはどんどん着るわ』『あなたも着てみたらいいじゃない』と譲らないんです。

『私は着物を着ないから、無用の長物なんですが、なんとかならないでしょうか』

ある女性が、こんなふうにこぼしていました。お茶の師範をやられていたということなので、おそらくどの着物も高価なものなのだと思います。それを捨てたくないというお義母さんの気持ちはよくわかります。しかし一方で、お嫁さんの「無用の長物だから処分したい」という気持ちもわからないではありません。

このように、価値観の違いで「捨てたい」「捨てたくない」という気持ちが衝突することは、親子関係でよくあることです。でも、衝突したままでは何の解決にもなりませんね。

こんなときに大切なのは、相手の価値観を受け入れることです。今回のケースのように「着物なんて無用の長物」などと言えば、お義母さんはますます頑なになってしまうでしょう。

着物を気分よく手放させる方法

ではどうすればいいのでしょうか。このような場合、私は「メルカリ」や「ヤフーオークション」などの個人売買サイトを利用してみてはどうかと提案することにしています。まずは「価値をわかってくれる人になら譲ってもいい」という着物を義母さんに選んでもらい、それに希望の値段をつけて出してみます。

おそらく、義母さんの希望価格では売れないでしょうが、それでもいいんです。なぜなら「私の希望価格は相場より高いようだ」とお義母さん自身が理解できるためです。

こうして少しずつ値段を下げていけば、やがては買い手が付くはずです。望む金額ではないかもしれませんが、捨て値でリサイクルショップに引き取ってもらうより、ずっと気分がいいでしょう。

新しい販売方法を利用して、義母の“古い”価値観を受け入れることにもつながるわけですから、なんとも面白い時代ではありませんか。実は、この「面白い」というのはとても大切なことで、こうしてネットでの個人売買を繰り返していくと、おそらく義母も着物の売買や購入者とのやりとりが面白くなってくるはずですから、着物の数も次第に減っていくと思うのです。