女性と高齢者の社会参加で財政は改善

とはいえ、世界的にみてもビジネスの場は依然として男性優位社会です。米国では、大統領候補だったヒラリー・クリントンがガラスの天井という表現をしましたが、『フォーブス』誌の長者番付調査(2019)では、日本やアメリカではトップ10は全て男性。香港やシンガポールでは女性もトップ10にランクインしていますが、多くは男性です。しかし、香港やシンガポールにはパワフルな女性経営者も多く、社交の場においても3割程度は女性の姿が見えることがごく一般的です。

日本政府は社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を、少なくとも30%程度とする目標を掲げています。国際労働機関(ILO)によると、2018年に世界の管理職に占める女性の割合は27.1%でした。日本はゆるやかに上昇しているものの12%と主要7カ国(G7)で最下位と目標には遠く及びません。

厚生労働省は公的年金の長期見通しを試算する財政検証2019年の結果を公表しました。経済成長率が最も高いシナリオでも将来の給付水準は今より16%下がり、成長率の横ばいが続くケースでは3割弱も低下するという内容でした。60歳まで働いて65歳で年金をもらう今の高齢者と同水準の年金を現在20歳の人がもらうには68歳まで働く必要があるとの試算も示しました。

この結果に衝撃も走りましたが、女性や高齢者の社会参加により、2014年の数字よりは改善しています。私たち女性が高い収入を稼ぐことで、社会保障料の担い手を増やしていかない限りは年金制度の維持も難しいと言えるのです。

家事育児の軽減化が女性の活躍を促す

シンガポールは女性も高齢者も働ける限りは働く社会で、それを支えるべく外国人の家事労働者の受け入れを認めています。そのため、女性が育児や介護で離職をする必要はありません。女性も働いて日本の年金制度に当たるお金を自分で払わないと、老後のお金が自分のアカウントに貯まりません。

日本ではまだ高齢化の波は序の口で、2025年には団塊世代全員が75歳以上の後期高齢者になります。その後も団塊ジュニア世代の高齢化なども続き、2070年を超えるまではずっと少子高齢化の苦しい時代が続くことが予想されているのです。

シンガポールのように女性の家事育児の負担を軽減させ、女性が活躍できる社会を口先だけではなく実現させていかなければ、財政問題も解決できず全体の生活レベルは下がるだけです。

日本の働く女性は、今後も男女双方からのマウンティングで足を引っ張られることや排除されることもあるかもしれません。全ての人がフラットに気持ちよく働ける風通しの良い社会になるにはもう少し時間がかかるでしょう。しかし、働く女性同士が手を取り合って助け合い、チームを組んで雰囲気を変えていきたいものです。私もこれまで自分の弱みを見せないようにしてきましたが、あえて負の部分もさらけ出し、いろいろな人と共有していくことが社会を変える第一歩だと感じるようになりました。

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花輪 陽子(はなわ・ようこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士

外資系投資銀行を経てFPとして独立。2015年からシンガポールに移住。『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』など著書多数。