シンガポール在住、ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。働く女性の多くが、職場やプライベートでマウンティングを受けた経験があるのではないでしょうか。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/fotostorm)

仕事の社交は9割男性、学校関連の多くは女性

日本の職場や社交の場はまだまだ男性社会です。集まりによっては9割が男性という場もあり、驚かされます。とある国際的なパーティーで、秘書や翻訳通訳の人以外は皆、男性だったという状況も経験したことがあります。その場では女性である私は自分から名刺を渡してあいさつに行かない限りは声をかけられることもありませんでした。また、会社関係のオープンでない夜の集まりは男性のみに声がけし、同じ仕事をしていても女性は誘われないという職場があるとも聞きます。

反対に学校行事への参加はほとんどが女性というのが日本の現状ではないでしょうか。子供の送り迎えやPTAへの参加は女性の方が圧倒的に多いです。

働く女性が苦しむ、公私のマウンティング

働く女性の場合、両方の歪んだ場に参加せざるを得ず、社交の場では男性からマウンティングを受け、プライベートでは女性からマウンティングを受けるということも起こるのです。男性が多い場では締め出されたり、嫌がらせを受けたりすることもあり、逆に女性が多い子供関連の場では、持ち物からネイルまで見られて自分と同じグループに属するかフィルタリングされるのに、いざグループに入ってもなかなか必要な情報がシェアされない、といった二重苦に苦しむこともあるものです。私も出産をし、子育て中に○○さんのママと呼ばれ「名前を失った」経験があります。その時は自分自身ではなく、子供や夫のスペックで比べられる機会が多く苦い経験をしました。本格的に仕事復帰した後は子供がいることなど言い訳にできず、男性と同じ土俵で戦わなければなりません。日本の男性社会のマウンティングも女性社会のマウンティングと種類が違うものの壮絶です。

学校行事に来られない親もサポート

私が住んでいるシンガポールでの社交の場は日本とは比べられないほどジェンダーフリーです。男性社会の日本出張の後にシンガポールの社交の場に行った際には安心をして涙が出そうになりました。他国の大使や会社経営者なども向こうからあいさつをしてくれ、仕事のことなども聞いてくれ対等な話ができるのです。閉鎖的な日本から帰国すると、こういった誰に対してもフレンドリーに接してくれる風通しよい環境は当たり前ではないのだと感じさせられました。

また、学校行事でも、シンガポールでは男性の参加率が日本と比べるとかなり高いです。パートナーの女性が大企業の管理職で、男性の方がスタートアップ企業の経営者で時間に融通が利くので、男性が学校行事に多く参加をするという家庭もありました。土日も家族全員でブランチに行くといった生活が一般で、パパだけゴルフといったことはあまりないのです。逆にパパが単独で子供を連れて出かけ、ママは休日にリラックスという状況はよくあります。

また、学校などの情報もEメールやアプリなどで全員に均等に送られ、忙しくて見落としていても講師や保護者がサポートしてくれます。学校行事に両親が来られない家庭に対してもスタッフなどがサポートしてくれます。忘れ物をしても学校の物を貸してくれるなどのサービスがいきとどいており、子供のドレスコードが間違っていても特に何も言われない(常に数人は間違えていることが多い)など保護者に優しいです。

要するに、シンガポールは多様性や家庭環境の違いを考慮してサポートしてくれる社会で、日本のように「専業主婦とサラリーマンの夫」が前提になっていないのです。他の先進国やアジアの国と同じく、同国で専業主婦はすでに絶滅危惧種で、主婦であったとしても家業の手伝いやボランティアなど何かしらしている家庭が多いからです。また、シンガポールのような多民族、多人種の国家だと、それぞれの考え方が違い過ぎるためにお互いが寄り添って協力し合い仲良くする必要性が出てくるわけです。

女性と高齢者の社会参加で財政は改善

とはいえ、世界的にみてもビジネスの場は依然として男性優位社会です。米国では、大統領候補だったヒラリー・クリントンがガラスの天井という表現をしましたが、『フォーブス』誌の長者番付調査(2019)では、日本やアメリカではトップ10は全て男性。香港やシンガポールでは女性もトップ10にランクインしていますが、多くは男性です。しかし、香港やシンガポールにはパワフルな女性経営者も多く、社交の場においても3割程度は女性の姿が見えることがごく一般的です。

日本政府は社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を、少なくとも30%程度とする目標を掲げています。国際労働機関(ILO)によると、2018年に世界の管理職に占める女性の割合は27.1%でした。日本はゆるやかに上昇しているものの12%と主要7カ国(G7)で最下位と目標には遠く及びません。

厚生労働省は公的年金の長期見通しを試算する財政検証2019年の結果を公表しました。経済成長率が最も高いシナリオでも将来の給付水準は今より16%下がり、成長率の横ばいが続くケースでは3割弱も低下するという内容でした。60歳まで働いて65歳で年金をもらう今の高齢者と同水準の年金を現在20歳の人がもらうには68歳まで働く必要があるとの試算も示しました。

この結果に衝撃も走りましたが、女性や高齢者の社会参加により、2014年の数字よりは改善しています。私たち女性が高い収入を稼ぐことで、社会保障料の担い手を増やしていかない限りは年金制度の維持も難しいと言えるのです。

家事育児の軽減化が女性の活躍を促す

シンガポールは女性も高齢者も働ける限りは働く社会で、それを支えるべく外国人の家事労働者の受け入れを認めています。そのため、女性が育児や介護で離職をする必要はありません。女性も働いて日本の年金制度に当たるお金を自分で払わないと、老後のお金が自分のアカウントに貯まりません。

日本ではまだ高齢化の波は序の口で、2025年には団塊世代全員が75歳以上の後期高齢者になります。その後も団塊ジュニア世代の高齢化なども続き、2070年を超えるまではずっと少子高齢化の苦しい時代が続くことが予想されているのです。

シンガポールのように女性の家事育児の負担を軽減させ、女性が活躍できる社会を口先だけではなく実現させていかなければ、財政問題も解決できず全体の生活レベルは下がるだけです。

日本の働く女性は、今後も男女双方からのマウンティングで足を引っ張られることや排除されることもあるかもしれません。全ての人がフラットに気持ちよく働ける風通しの良い社会になるにはもう少し時間がかかるでしょう。しかし、働く女性同士が手を取り合って助け合い、チームを組んで雰囲気を変えていきたいものです。私もこれまで自分の弱みを見せないようにしてきましたが、あえて負の部分もさらけ出し、いろいろな人と共有していくことが社会を変える第一歩だと感じるようになりました。