「通勤カバン」と「勝負カバン」の使い分け

大都市の通勤電車やビジネス現場を見ていると、スーツにリュックを背負ったビジネスパーソンが増えたのを感じます。男性だけでなく女性のリュック姿も増えました。

「リュックを選ぶ理由」も男女さまざまな世代に聞いてきましたが、「中に入れる荷物が増えて、肩掛けからリュックになった」「両手が空くので何かと便利」という声が多いです。

一方、カバンメーカーの広報担当は「ノートパソコンやタブレット端末がきちんと収納できるかを気にする人が多い。ペットボトルや折り畳み傘など、収納物も増えたので、カバン本体を軽くして総重量を抑えたいという意識も高い」と話していました。

取材結果では、靴と同様、「勝負カバン」でリュックを選ぶ人は少数派です。

例えば、ランドセルで有名な土屋鞄製造所は、働く女性向けに『HINON(ヒノン)』というシリーズを開発し、展開しています。同社は革カバン専門メーカーとして知られています。

女性向けでは少ない、革のトートバックやブリーフタイプ。「ビジネスにふさわしい品格と、使い心地」を掲げ、価格は7万~8万円台(税込み)が中心となっています。

土屋鞄製造所の「HINON」。

「“雨にも負けない仕事鞄”としてもご案内しています。特別な加工で、水染みや傷がつきづらく、色落ち、色移りも抑えられ、お手入れをほぼせずともビジネスシーンで大切な清潔感をキープできる革素材を使用しています」(土屋鞄の女性広報担当)

一般に、革素材は水に弱く、濡れるとシミになったり、水ぶくれとなったりしますが、それを防ぐ取り組みです。高価格ですが「大切なシーン向け」に買う女性も多いそうです。

“一応頑張る”という心理

こうした消費者意識やメーカー訴求を見ていると、「勝負アイテム」とはいえ、消費者のキーワードは「カジュアル感もある、しなやかさ」だと思います。

今回は言及しませんでしたが、ワコールのアンケート上位に来た「服(スーツ)」も、肩パットのないソフトタイプが目立つようになりました。「腕時計」も金属製ではなく、アップルウォッチやスマートウォッチのような樹脂製を好む人も男女を問わず増えています。

プレゼンを受ける側の企業責任者も取材しますが、世代交代するにつれて、カジュアル化を気にしなくなっています。ただし「クールビズ」で「Tシャツはビジネスシーンにふさわしくない」とNGにする企業が大半のように、基本のTPOを踏まえて……ではあります。

前述した男女雇用機会均等法の2年後(1988年)、女性誌『Hanako』(ハナコ)が創刊されました。創刊時のキャッチコピーは次のものでした。

「キャリアとケッコンだけじゃ いや。」

仕事仲間の20代や30代の女性に話すと、いまでも通じる言葉だという声が多いです。「一応頑張るけど、頑張りすぎない」のは、人生だけでなく、勝負アイテム選びにも通じるかもしれません。

写真=iStock.com

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)、2024年9月26日に最新刊『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)を発売。