7割を超えた「働く女性」
よく「働く女性が増えた」と言いますが、どれぐらいの人が働いているのでしょうか。
8月30日に総務省統計局が発表した「労働力調査」(7月分結果)によれば、15歳から64歳までの女性の就業者数は2996万人(男性は3736万人)。就業率は71.2%(男性は84.4%)となっています。人数は79カ月連続で増加しているそうです。
少し前まで、働く女性の数字は「7割の壁」がありましたが、いまは突破しています。なお、「15歳から」というくくりに違和感を持つ人がいるかもしれません。統計資料は過去を踏襲することが一般的で、昭和時代の名残も多いのです。
働く女性の中には、正社員以外に契約社員や派遣社員もいれば業務委託契約(専門性を評価された契約)もいて、パートやアルバイトもいます。もちろん自営業の人もいます。データで見る限り、個々の事例はさておき、総じて人手不足のなか、積極的に女性を登用する動きになっています。
重責を担う女性の勝負アイテムとは
以前の当連載でも触れましたが、日本において「男女雇用機会均等法」(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律。「雇均法」)が施行されたのは1986年4月です。法律が施行されても「男女差別」は続き、当時の意欲的な女性にとって気苦労の多い時代でした。ようやくこの10年で“こなれてきた”ように思います。
例えば、筆者が企業取材を本格的に始めた1988年は、企業の広報担当はほぼ全員男性で、若手男性も少なかった。それが現在、接する広報担当は女性が多く、広報部長や広報マネジャーが女性なのは珍しくありません。取材相手も同様で、経営者や営業本部長も女性が増えています。ふだんは性別を気にしませんが、改めて振り返ると隔世の感があります。
そうした責任ある立場を任される女性が増えると、プレゼンテーションなどの「勝負の日」と、実務中心の「内勤の日」に分かれます。経営層以外は服装もそうで、「今日は内勤なので、手を抜いた格好をしています」と話す女性も多いです。
今回は、働く女性の「勝負アイテム」について考えてみることにします。
ビジネスシーンを格上げする「靴」と「カバン」
下着メーカーとして知られるワコールが2月6日に発表した「働く女性の靴(パンプス)に関する意識調査」というデータがあります。
特に興味を持ったのが「あなたにとってビジネスシーン(重要なプレゼン、商談、会食など)を格上げする勝負アイテムは何ですか?」という質問項目。結果は次のとおりでした。
2位「髪型」39.8%
3位「靴(パンプス)」37.8%
4位「化粧」36.3%
5位「腕時計」23.0%
6位「鞄」15.8%
(複数回答)
上位のうち、服や髪の話は当連載でも取り上げてきたので、今回は「靴」と「カバン」に注目しました。取材先の事例も紹介しつつ、働く女性の意識を考えたいと思います。
苦痛のないパンプスはないのか
今年(2019年)「#Kutoo」というキーワードが話題となりました。「職場で女性がヒールやパンプスを履くことを強制する風習をなくしたい」という趣旨で、提唱したのはグラビアアイドルでライターの石川優実さん。まずはSNSで発信し、賛同した1万8800人分の署名を厚生労働省に提出しました。「#Kutoo」は「苦痛」と「#MeToo」(ミートゥー。私も)を掛け合わせた言葉で、「女性を靴の痛みから解放しよう」という支持も広がっています。
一方で「業務上必要な場合もある」という声もあります。例えば、取材先のアパレルショップは、「このブランドは、5センチ以上のヒールが最も映える」がモットーで、販売スタッフの女性も、高いヒールの靴や厚底サンダルを履いて接客していました。
事務職でも「内勤日はともかく、取引先へのプレゼンではヒールやパンプスを履く。服も黒をベースにしたシックな装いに変えます」(32歳の女性会社員)という声も聞きました。
難しい問題ですが、履いても痛くないパンプスを開発したメーカーがあります。
走れるセミオーダーのパンプス
セミオーダーメイドのパンプス「KiBERA」(キビラ)というブランドです。足型測定器を使って自分の足を計測したうえでのセミオーダーで、価格は1足9900円(+税)から揃えています。運営会社の経営者は野村證券→ユニクロ出身。そうした話題性もありメディア露出も増えています。
先日、一般客として店舗を見ました。よく見かけるようなシューズショップですが、展示フロアの別室の一角に「3D足型計測器」が置かれていたのが印象的でした。後日、広報関係者に聞くと、イベント実施時には「走っても痛くないか」を試すために、セミオーダーした靴を履いて、ランニングマシンで走る体験も行ったそうです。
「キビラ」が面白いのは、セミオーダーでの低価格を実現したのに加えて、足の専門家の大学教授とも連携して、「痛くない靴」を実現していること。靴に足を合わせるのではなく、足に合った靴を提唱しており、利用客も年々増えています。訴求の仕方は、既製のスーツではなく、身体に合ったセミオーダースーツのコンセプトに似ています。
ただしフルオーダーの高級靴ではなく、セミオーダーのお手頃価格の靴なので、すべての人に合うとは限りません。
「通勤カバン」と「勝負カバン」の使い分け
大都市の通勤電車やビジネス現場を見ていると、スーツにリュックを背負ったビジネスパーソンが増えたのを感じます。男性だけでなく女性のリュック姿も増えました。
「リュックを選ぶ理由」も男女さまざまな世代に聞いてきましたが、「中に入れる荷物が増えて、肩掛けからリュックになった」「両手が空くので何かと便利」という声が多いです。
一方、カバンメーカーの広報担当は「ノートパソコンやタブレット端末がきちんと収納できるかを気にする人が多い。ペットボトルや折り畳み傘など、収納物も増えたので、カバン本体を軽くして総重量を抑えたいという意識も高い」と話していました。
取材結果では、靴と同様、「勝負カバン」でリュックを選ぶ人は少数派です。
例えば、ランドセルで有名な土屋鞄製造所は、働く女性向けに『HINON(ヒノン)』というシリーズを開発し、展開しています。同社は革カバン専門メーカーとして知られています。
女性向けでは少ない、革のトートバックやブリーフタイプ。「ビジネスにふさわしい品格と、使い心地」を掲げ、価格は7万~8万円台(税込み)が中心となっています。
「“雨にも負けない仕事鞄”としてもご案内しています。特別な加工で、水染みや傷がつきづらく、色落ち、色移りも抑えられ、お手入れをほぼせずともビジネスシーンで大切な清潔感をキープできる革素材を使用しています」(土屋鞄の女性広報担当)
一般に、革素材は水に弱く、濡れるとシミになったり、水ぶくれとなったりしますが、それを防ぐ取り組みです。高価格ですが「大切なシーン向け」に買う女性も多いそうです。
“一応頑張る”という心理
こうした消費者意識やメーカー訴求を見ていると、「勝負アイテム」とはいえ、消費者のキーワードは「カジュアル感もある、しなやかさ」だと思います。
今回は言及しませんでしたが、ワコールのアンケート上位に来た「服(スーツ)」も、肩パットのないソフトタイプが目立つようになりました。「腕時計」も金属製ではなく、アップルウォッチやスマートウォッチのような樹脂製を好む人も男女を問わず増えています。
プレゼンを受ける側の企業責任者も取材しますが、世代交代するにつれて、カジュアル化を気にしなくなっています。ただし「クールビズ」で「Tシャツはビジネスシーンにふさわしくない」とNGにする企業が大半のように、基本のTPOを踏まえて……ではあります。
前述した男女雇用機会均等法の2年後(1988年)、女性誌『Hanako』(ハナコ)が創刊されました。創刊時のキャッチコピーは次のものでした。
「キャリアとケッコンだけじゃ いや。」
仕事仲間の20代や30代の女性に話すと、いまでも通じる言葉だという声が多いです。「一応頑張るけど、頑張りすぎない」のは、人生だけでなく、勝負アイテム選びにも通じるかもしれません。