マネジメントを猛勉強し、腹をくくる
たしかに、PR的な観点からは、女性が代表取締役になるのはプラスに働くだろうし、会社の事業も「ハエ」だとすれば、ギャップも有利に働くだろう。認知度を上げたければ、自分が広告塔になればいい。
思い悩んだ結果、社長就任の話を受けることにした。
ただし「経営者の席は空いています」というメッセージも込めて、“暫定CEO”を名乗ることにした。スティーブ・ジョブズもかつてそう名乗っていた時期もある。それに倣うのも話題になるのではないかとも考えた。
一方で、マネジメントも一から勉強した。自分がやれる最大限のことをやっていきたかったからだ。そして、2019年4月、暫定の文字を取り、正式にCEOを名乗ることになった。投資家から見れば、経営体制が不安定に見えるということもあり、流郷さんは腹をくくった。
社長は社内最年少
ムスカはベテランの技術者や専門家の集団であるため、平均年齢が高く、流郷さんが最年少。父と娘ほどの年齢差がありつつも、誰とでも遠慮なく議論しあうという。
「これからは『インセクトテック』という分野を確立していきたい」という流郷さん。「ゴミの業界も肥料や飼料の業界も、とても古い商習慣を持ち続けています。試練は多いですが、古いがゆえに分断されたサプライチェーンをつなげていきたいんです」。
ムスカは、約45年で1100世代を超える選別交配を経たエリートのイエバエたちを使い、飼料と有機肥料を生み出す100%バイオマスリサイクル処理を可能にした。まだまだプラントも足りないが、総合商社や銀行など戦略的なパートナーシップも結び、ビジネスとしても立ち上げていく。
現在、プライベートではシングルマザーで、母と二人の子どもと暮らしている。「『自分の子どもが80歳になった時に語りたい会社であるか』が仕事を選ぶ基準。ムスカは次世代に伝えていける会社だと思いました」
子どもたちからかけられる「ママならまたいつでも彼氏ができるよ」という温かい(?)言葉に苦笑しつつ、あくまでも流郷さんはマイペースだ。次から次に飛び込んでくる、新しい「コンテンツ」に心を躍らせながら、これからも彼女は彼女の道を行く。
構成=藍羽 笑生
1990年生まれ。2児の母。ベンチャー企業の広報として活躍後、フリーランスの広報として独立。スタートアップや大企業に対し、ブランディングからマーケティングまで一貫した広報戦略コンサルティングを提供する。2017年11月に広報戦略としてジョインし、2018年7月、ムスカ代表取締役暫定CEOとして経営参画。19年の新経営体制発表により、名称の変更をし、現職就任。