業務拡大で子どもとの時間がほとんど取れず
一方、契約先を増やしすぎてしまったことで、家庭の状況を思い悩むことになる。
子どもたちは二人とも保育園に通っていたが、育児はほとんど流郷さんの母親任せ。園の行事はもちろん、子どもとの時間はほとんど取れなくなっていた。
代わりになる人がいても、やっぱり子どもたちは自分が行事に来てくれるのを待っている――。仕事を増やしすぎたことを反省し、自分の軸を決めて、業務委託を受ける社数を絞った。さらに、広報業務そのものではなく、受注した企業の社員に対して、広報の仕事を教育するというやり方にシフトした。
そうして仕事のスタイルを変えて、広報として新たな道を進んでいたころだった。
2017年の秋、流郷さんのもとに、ムスカの関係者から「広報を手伝ってほしい」という誘いが舞い込んだ。
“ハエでバイオマスリサイクルをする”という特殊な事業を行う会社ではあるが、もともとニッチな分野の広報の仕事を多く受けていたため、ハードルの高さは感じなかった。
「『誰に伝えたいか』を考えるのはどこも同じですから」
“ハエ職人”の創業者から社長就任の打診
そうして、2017年11月に広報戦略を担当する執行役員として入社したのだが、しばらくして思わぬ展開が生じる。創業者である串間充崇さんから、「社長になってほしい」と言われたのだ。
串間さんは根っからのハエ職人で、ある意味“ハエ業界”ではトップの存在である。バイオマスの分野も、社会的認知が進んできた。ただ、世間一般的に、ムスカという会社の認知度が低いのがビジネス上の難点だった。
あまりの重責に、最初の打診は断った。しかし、串間さんも引かず、説得は続いた。