ローンチ目前、社長の妊娠が発覚
一方で、「kanatta」のサイト構築中に、社長の矢口さんが妊娠。営業は矢口さんに任せていたが、リリースの頃に出産することになったため、社長は創業メンバーの一人である鶴田泰啓さんに交代した。ただ、女性向けのビジネスであったことから、自然と井口さんも前に出るようになった。
矢口さんとは陣痛の時以外はずっとやりとりをしていたという。こうして、だれか抜けたときは他の人が代わりをできるような関係性を築くことができた。
「kanatta」がオープンすると、今度は起案者が支援されるようにサポートしなくてはならない。見ず知らずの人にお金を支援する人はほとんどいない。どんなに素晴らしいプロジェクトを実行しようとしていても、支援額が3分の1程度入っていないと不安になるものだ。その「初めの3分の1」を支援してもらうため、知り合いに支援を求めることが成功のキーになるが、抵抗を感じる起案者も多く、その必要性を伝えるのに苦労した。
創業メンバーの退職で事業継続のピンチに
一方で、クラウドファンディングと並行して進めていた「ドローンジョプラス」のほうでは、創業メンバーの一人だった中心メンバーが「もっとドローン操縦の技術を磨きたい」と突然退職。
彼女の代わりになるような技術のあるスタッフはおらず、事業継続のピンチに立たされた。会員数は40人にも増えていたが、ここで解散したほうがいいのではないかという声も上がった。
だが、残りのメンバーは「まだやりたい」と前向きだった。そこで、思い切って事業を方向転換する決断をした。これまでの専門性の高い内容からドローン操縦体験会など、広くドローンを知ってもらうような方向にシフトした。19年の年始、一度は10人まで減少していた会員数は現在60名を突破、年末までに100人に増やすことを目標にしている。もともとコミュニティー重視の会社であるため、こうしたことをとっかかりにして、マネタイズを目指していく構えだ。
今年(2019年)8月に井口さんに社長交代し、Kanattaは新しいスタートを切ったばかり。
「たくさんアイデアがあるのに形にすることができない女性はたくさんいます。これからはそのサポートをしていきたいですね」と井口さんは意気込みを語る。
井口さんの夢も、ドローンのように、高みへと向かっていくようだ。
文=藍羽 笑生
監査法人やファッション業界での経験を経て2016年、AIR(現Kanatta)を設立しCOOに就任。女性が輝ける「仕組み」と「コミュニティ」を提供し、ジェンダー平等の実現に貢献することを理念に掲げ、女性コミュニティ「kanatta」を中心に、ドローン事業やクラウドファンディング事業を展開している。