女性社員“一斉退社事件”

新卒で就職したのは、大手監査法人だ。グローバルに支社や子会社を持つ日本企業を担当していたため、変則期決算が多かった。そのため、業務が一部の月に集中するというより、ずっと忙しいという状態で、残業が月100時間あるのは当たり前だった。

仕事は大好きだったが、女性の働き方としてモデルになるような先輩は1人もいなかった。それどころか、その部署で唯一の女性管理職だった上司が、中学生の子どもを持つというのに、いつも終電近くに退社しているのを見て、「管理職まで上がってもこんなに働かなくてはいけないのか」とげんなりしていた。

あるとき、その女性管理職が、社内イベントで、「私くらい働かないと生き残れないわよ」と話したことで、多くの女性社員がどっと辞めてしまったという笑えない話も、若い井口さんのもとに漏れ伝わってきた。

ずっとここにいるのは無理だ、そう考えた井口さんは、「残業がない会社」を求めて、25歳で転職することにした。

女性に優しすぎる会社は物足りない

次に選んだのが外資系企業だった。就職したモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(以下、LVMH)は、8割が女性社員で、ワークライフバランスが完備された働きやすい職場だ。20時になって会社に残っていたら、フランス人の上司が「まだ帰らないの?」と催促してくるほどであった。

たしかに「ライフ」の時間は取れるようになったが、井口さんは「ワーク」が嫌いなわけではない。また、女性が8割の会社なのに、経営陣を見てみると、全員が男性である。

「女性が活躍できるフィールドは、もっと他にあるのではないか」

そうして、どことなく仕事に物足りなさを感じるようになっていった。

そうはいっても、会社で残業することもできない。仕事の後は、あらゆるコミュニティーに顔を出し、人脈を広げるための異業種交流に明け暮れた。「会社の人は、『井口さんは毎日合コンに行っている』と思っていたんじゃないでしょうか(笑)」