“働く意義”を伝えることで、部下のモチベーションを保つ
CBREは香港やシンガポール、オーストラリアなどのアジア・パシフィック地域でも広く知られ、宣伝しなくとも応募者が多く集まる。だが、日本ではCBREブランドとしての知名度はまだ低いため、人材紹介エージェントに頼るところがある。そのためアジア・パシフィック地域を担当する上司には、「日本は何でこんなに採用費をかけているのか」と言われがちだ。コストを減らす努力はしても日本のマーケットでは難しいことを伝えるが、なかなか納得してもらえないと、つい感情的に反論してしまうこともあった。
「そこで学んだのは、自分では伝えているつもりでも、相手がどれだけ理解しているかはわからないということ。今は質問されるより前に、数字で示しながら報告できるよう、苦手なデータ分析もがんばっています」
入社当時は700名ほどの規模だったが、ビジネスの成長とともに社員も急激に増えている。チーム4人を率いるソニアさんにとって、その1人が辞めたときの痛手は大きかった。人事の業務がますます増えるなか、いかに部下のモチベーションを保つかが課題になる。採用の仕事は煩雑な業務も多く、売り上げのように数字で成果が見えるわけでもないからだ。
「けれど、それが会社の戦略にどうつながっているのかをわかってもらうことが大切。私に入る情報やグローバルレベルでアナウンスがあったものはなるべく部下に伝えるようにしています。会社でどんなことが起きているかわかると、仕事に活かせるし、彼らがやっていることの意義も見えると思うので」
目指すのは、子育てや介護を抱える人たちが活躍できる環境
働きやすい環境づくりにも積極的に取り組んでいる。フリーアドレス型を発展させたオフィス空間には、子育て中の女性のための搾乳室やシャワー室まで完備。フレックスタイム制度や在宅のリモートワークも活用している。
「私も学校の行事があるときは行ってあげたいし、たまに昼休みに学校へ寄って、子どもたちに本を読んであげることもあります。子育てや介護を抱える人たちにも時間を有効に使いながら、もっと活躍できるプラットフォ―ムを提供していきたいですね」
そのためには「パートナー選びも大切ですよ」とソニアさんはほほ笑む。家庭では夫と何でも話し、家事や子育ても協力し合う。かつては結婚を優先するため自分の目指す道も断念したけれど、子どもと過ごす時間を楽しめたことで後悔はなかった。その後、日本での転職を決めたときも、「がんばってみたら!」と後押ししてくれたのが夫だった。
「うちの夫はカリフォルニア人だから、すごくポジティブなんです(笑)。若い頃からいつも言っていたのは、仕事も結婚生活もチョイスだと。つまり、自分の意思ですべて選べるということです。自分のキャリアも、何か仕事をしなければいけないからというのではなく、自分が主体的に選択することが大切。私も最近はそう考えるようになりましたね」
若い頃はとかく自分はこんな風になりたいとビジョンを持つけれど、そこへ行く道筋はひとつではない。いろいろ寄り道をし、様々な経験をすることで、人間として、自分のキャリアにおいても、強みを身につけられる。だからこそ「あなたのチョイスを大切にしてほしい」と、寄り道も楽しんできたソニアさんならではの前向きなメッセージだ。
1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。