金融危機で見つめ直したキャリアプラン
不妊治療でようやく授かったのは男児と女児のふたご。育児と仕事の両立は厳しかったが、オフィスにも連れていき、社員に交代で子供をあやしてもらっている合間に仕事をするような生活が続く。ファミリービジネスの温かな職場に支えられていたが、そんな状況も数年後に一変してしまう。
「2008年のリーマンショックの影響で、お客さまからの依頼が一気に減ったのです。普通の経営陣であればダウンサイズしたり、支店オフィスをクローズしたりして、人を減らしていたと思いますが、私たちは皆に家族のように助けられてきたので決断できなかった。収入が減っていく中でも3年ほどは社員を抱えていました。良かれと思っての継続でしたが、もっと早いタイミングで解雇してあげた方が、彼らはより良い条件を提示されながら、いい仕事の機会を探すことができたかもしれない。今となれば、あのとき冷静な経営判断ができなかったことをすごく後悔していますね」
ソニアさんも自分のキャリアを見つめ直すことになった。子どもたちが幼稚園に入り、フルタイムで働くようになると、ビジネスの基礎をしっかり学びたいという思いがつのる。外資系企業への転職を考え始めたときに、CBREとの出会いがあった。夫は上海と行き来してビジネスを続けることになり、家族と日本へ帰国。2014年、38歳のときだった。
社内承認のプロセスの複雑さに目が点に…
CBREグループはロサンゼルスを本拠として世界最大の事業用不動産サービスを提供する会社。日本法人では、不動産賃貸・売買仲介をはじめ18の幅広い事業サービスを展開している。ソニアさんは採用責任者として、中途・新卒・障碍者雇用を統括してきた。
「うちはサービス会社で社員の営業力で成り立っているビジネスなので、一人一人が会社の資産であり、個人のレベルを上げていかないとお客さまから認めてもらえない。そのための教育制度や社内でのモビリティには力を入れています。日本でも終身雇用は崩れ、もはやキャリアパスもクリアーに見えなくなっている。それだけに、自らの力で未来を切り開くことができる社風を大事にしています」
いかに会社にマッチした人材を探してくるか。そのためには社内外のネットワークを拡げ、どんな人材が活躍しているか、たえずアンテナを張ることを心がけているという。
さらに人事の決定には会社全体の意向が関わってくる。かつて働いていたファミリービジネスでのやり方は通用せず、最初はとまどうばかりだった、とソニアさんは苦笑する。
「お恥ずかしい話ですが、いちばんびっくりしたのは関係部署の承認者が何人もいて、その度に議事に残すなどプロセスが複雑なこと。ちゃんとした会社はこうなのかと目が点になりました(笑)。1つのことを決めるにも、どの程度の情報をどのタイミングでシェアすればいいのか、まずは誰を押さえておけばいいのかというような知恵も欠かせない。いわば“根回し”というのでしょうか。会社が大きくなるほどステークホルダーも増えていきますし、グローバルカンパニーということもあり、日本だけで完結しないことも多くあります」