お嬢様が目を覚ましたリンゴ事件

ところが、その短大で教育実習に行った幼稚園で叩きのめされる。

実習初日、遅刻しそうだった芝山さんは、実習先の幼稚園まで母親に車で送ってもらった。しかし、それを見ていた園長が激怒。

「一番後に来ておいて、送り付きとは何事か」と朝から40分も説教された。そのうえ、実習ではリンゴの皮一つ剥けない芝山さんを「あんたみたいな人間、使いものにならない」と切り捨てた。

今まで他人からそんな扱いを受けたことがなかった芝山さんは、あまりの悔しさに、その日の夜にリンゴを大量に買ってきて、皮むきを練習し続けた。

翌日には皮むきができるようになっていた芝山さんに、園長は「根性があるな」と認めてくれた。

後で知ったことだが、園長もまた、過去にお嬢様育ちをしてきた女性だった。世間知らずで苦労し、女手一つで4人の子を育て、夫がつくった多額の借金を負って生きてきた。そうした経緯から、自分と似たタイプだった芝山さんに、喝を入れてくれたというわけだ。

人は信じれば変わり、成長する――それを実感した芝山さんは、その日から園長を信奉。仕事の仕方から社会との向き合い方まで、小学校の音楽専科教師として就職してからも、公私ともにメンターとして学んだ。それは、「お嬢様」からの脱皮でもあった。

専業主婦から経営者への道を突っ走る

そんな芝山さんだったが、24歳で結婚し、幼児教育の世界からは離れ、専業主婦として子育てに専念することになった。夫は車のエンジニアだったが、子どもの教育にお金をかけたいと考えた芝山さんは、当時始まっていた携帯キャリアのキャンペーン「0円携帯」を配ることにした。

携帯電話を知り合いに無料で配って回線契約をしてもらうだけでインセンティブが15000円入るというものなのだが、幼稚園時代の知人に配りまくった結果、主婦の副業レベルではなくなり起業することに。最高で月150万円を稼ぐほどになったことで、その業界で一躍有名人になった。

「高い粗大ごみを建てたね」

ある日、そうした功績からおよそ1500人の前で話すセミナーに登壇することになった。そこで出会ったのが、のちにWELLNEST HOME創業者となる早田宏徳さんだった。

芝山さんは1億円かけて建てた自宅に住んでいたが、月8万円の光熱費を支払っていた。しかし、当時から低燃費で良質な家のつくり方を提唱していた早田さんは、その1億円の家の話を聞くと、「高い粗大ごみを建てたね」と言った。早田さんのつくる家は、たった1台のエアコンで家じゅうが涼しくなるような工法で、光熱費も抑えられるというのだ。

芝山さんは、自分が建てた家が質の悪いものだったというショック以上に、その工務店を他人に薦めたことで、被害者を増やしてしまったことを激しく後悔した。

「いいと思ったものしか人に伝えてはいけない」と思い悩んだ芝山さんは、早田さんからのスカウトを受け、2年後には住宅の世界に足を踏み入れることになる。