“試住”という前代未聞のアイデア
芝山さんは、早田さんの経営していたドイツで学んだ省エネ建築を広げるコンサルティング企業の専務に就任。だが、順調に見えたのもつかの間、東日本大震災が起きたことで売り上げは半減。あと数カ月で資金がショートするという中、泣く泣く若い社員を他社に預かってもらうことになった。たった数カ月のことだったが、「里子」状態のつらい体験が、のちに芝山さんが「お母さん社長」と呼ばれるようになったきっかけでもある
会社を立て直すにあたり、今度はコンサルティングだけでなく、実際に家を売る住宅会社として再起することになった。低燃費住宅の創業である。
そこで行ったことが「試住」体験だ。
「食べ物を買うなら試食をするし、服を買うなら試着する。家はこんなに高い買い物なのに、モデルハウスしかないのはおかしい」と考えた芝山さんは、モデルハウスに実際に住んでもらう体験ができるようにした。
また職人向けに、建設途中の現場に入れる見学会も実施。工期が長く敬遠される工法だったため、なぜ真夏でも涼しい家が建てられるのかをすべて見てもらい、理解してくれる職人を味方につける必要があったのだ。
こうして少しずつ事業を拡大していく中、芝山さんが社長になるきっかけとなったある事件が起きる。
社名と路線の変更を決断
「100坪の家を建てたい」という医師の契約が取れそうだったのだが、そこで言われたのが「この工法の家を建てたいが、家の売りは『低燃費』。せっかくいい家を買うのだから、『低』をうたうのをやめてくれないか」
当時は「低燃費」を武器に営業しており、社名も低燃費住宅。しかし客のニーズとしては「低燃費だから建てたい」というだけではなくなってきていたとハッとした。
早田さんも大きな家を同じ工法で建てるのは大変だとあきらめていたこともあった。
「改革しよう」と芝山さんは立ち上がった。お母さんが巣作りをし、子どもが巣立っていく家をイメージして、社名を「WELLNEST HOME」に変更した。
低燃費路線から、WELLNESTの特色であるアレルギーやアトピーになりにくいといったソフト面を伝えるアプローチへと変更した。2017年には、早田から社長交代の打診を受け、それを受けることになる。「いずれはこの躯体で幼稚園をやりたいんです」と芝山さんは微笑む。
現在、WELLNESTグループには女性向けの研修など教育事業も含まれており、2021に年にはグループ全体で100億円の売上高を目指していく。
それでも本当は夫を支える生活がしたかった、と漏らす彼女は、専業主婦だった母親の姿を、自身に重ねていたのかもしれない。それを全うしながらも、日本中の女性や母親を応援したいという気持ちが勝ってその後の活動に繋がっている。
二人の子どもを立派に育て、社長業をもやり抜く彼女は、今日も次世代の女性が夢をかなえるために、「お母さん社長」として発信を続けている。
WELLNEST HOME 社長
教師、専業主婦を経て2001年、携帯電話の代理店事業で起業。2008年、WELLNEST(旧IMPACT)を起業し、独自の教育論で人財育成や女性の起業支援を手がける。累計セミナー受講者数は7350人を超える。2017年、WELLNEST HOMEの社長に就任。
文=藍羽笑生