聞かれる前に希望を伝え、不要な気遣いをさせない

とはいえ、フライト中は気が抜けないのがCAの宿命。さまざまな乗客の多様な不便や不満を解消しようと目を光らせている。

「あるイギリス人の女性の方は、搭乗後すぐに、あらかじめ用意しておいたメモを私にお渡しになりました。それには、そのフライトで希望する時間の過ごし方が、時系列で整然と書かれていたのです。そして、一通り説明してから『それ以上のサービスは不要』と明言されました」

このメモのおかげで、鈴木さんは必要以上に彼女に接触して不快な思いをさせることはなく、適度なサービスができたという。欲する接客のかたちは人により微妙に異なるが、こうして最初に“正解”を提示してしまえば、CAも動きやすい。このイギリス人女性だけではなく、食事の好みや寝る時間、到着直後の予定など、こちらが聞き出さなくてもさりげなくインフォメーションしてくれる女性は多いという。先回りして相手が働きやすくする配慮は、普段の仕事でも実践できるコミュニケーション術だろう。

さらに鈴木さんは新人時代、こんな貴重な経験も。

「アメリカの某大手投資会社の要職に就く年配の女性とヒースロー空港までご一緒した際、『あなたとの会話はとても楽しかったわ。よかったらオフィスに遊びに来てくださいね』と名刺をいただきました。後日、実際にオフィスを案内していただく機会を得たのですが、高層ビル内の、あまりにもきらびやかな光景に圧倒されました。そこで彼女は仕事や日常生活の話をたくさんしてくれたうえで、『情熱さえあれば、あなたもこういうオフィスで働くことは可能よ』と、若いときこそいかに自分に投資するかが大切だと、自身の失敗談などを交えながらアドバイスしてくれたんです」

上から目線ではない、飾らない語り口と人柄に鈴木さんは心酔。彼女が身につけていたブルガリの宝飾品が、いっそう輝いて見えたそう。

誰にでもフラットに接し、出会いを大切にする。一流の女性は、そんな基本を身につけているのである。

▼クレームをクレームと思わせない! 建設的な提言でさりげなく伝える

機内ではイレギュラーなトラブルがあったり、ちょっとしたことで不満が出るもの。そんなときいら立ちをあらわにしてしまうことが誰しもあるだろう。

「乗務中にお客さまから苦言を呈されることは少なくありません。ただ、ファーストクラスの女性に共通しているのは、決して威圧的な物言いはしないということです」