多機能化のカギはQRコードリーダー

欧米の飲食店などではキャッシュレス決済以外を「お断り」にするところもあるが、乗車拒否をするわけにはいかないということだ。また、「いざという時」の頼りにもなる券売機は、一定数以上を必ず残しておく必要がある。せっかくなのだから、もっと有効に使えないか――。券売機は今、「多機能化」がトレンドになっている。

そもそもこのサービスは2017年、同社が新たなビジネスをグループ全社員から募る「社内起業家育成制度」に、これまで駅舎の開発などを担ってきた八巻氏が「券売機をはじめとした駅施設を活用した新規事業」として、アイデアを応募したところから始まった。

同年4月に銀行法施行規則が改正され、銀行が預金の払い出し業務を外部委託できるようにする規制緩和が行われたことも事業採用の後押しになったという。

キャッシュアウト・サービスを考案した東急電鉄の八巻善行氏=5月20日(編集部撮影)

「券売機の機能は3つに分解できる。第一に無人であること、第二に現金を取り扱っていること。そして当社の場合は、ネット予約した定期券を券売機で購入できるなどの『多機能化』を既に進めていた背景があり、QRコードの読み取り装置が搭載されていた。これらを組み合わせて何ができるか、という視点で考えた」(八巻氏)

券売機のシステム改修によっては、QRコードリーダーを用いて他のサービスを生むことも可能になる。業種をまたいだビジネスは、今後ますます広がっていくだろう。

チャージで投入される1万円札の再利用にも

実現に当たり細心の注意を払った点は、いかに「切符を購入するという券売機の本業」を妨げることなく、キャッシュアウトという新機能を上乗せするかだ。

例えばコンビニや駅構内の銀行ATMでは、暗証番号や金額をテンキーで一つひとつ入力する必要があり、時期によっては行列が発生している場面も見受けられる。一方、同社の券売機はQRコードリーダーを備えていることで、操作を最小限で済ませられる。キャッシュアウトの利用者が券売機を占拠してしまう事態を避けられるというわけだ。

1万円単位の出金額設定も、慎重な検討を重ねた結果だ。というのも、券売機は事前に準備した硬貨・紙幣に加え、利用者から投入されたお金も「お釣り」として再利用している。出金額を千円単位などで細かく設定できるようにしてしまうと、「紙幣切れ」のリスクが大きくなるのだ。

預金を下ろすことだけが目的なら他のATMを探せばよいが、券売機の場合は、切符購入者へのお釣りも同時に切れてしまうことを意味し、実際に生じれば混乱を招きかねない。

「最近は定期券購入やICカードへのチャージで、1万円札が投入される機会が増えた。でも、紙幣としては最高額なので、お釣りとして使う機会はほとんどない。これをうまく生かしたいと考えた」(八巻氏)