婚活のマッチングサイトで、勤務先や年収だけではなく、歯並びや肌質まで問われることがある。採用選考で特定の疾患リスクをもつ人を排除しようと「不適性検査」を行う企業がある――この状況に対して文筆家の御田寺圭氏は「『内側』で差別をなくそうとするほど、"ハイリスクな人"を避けようとする反動が形成される。人間の生まれ持った性質に迫るような『選別』が、現代社会の公私両面で広がっている」と分析する――。

生涯独身を誓ったある男の絶望

私的な話題で恐縮だが、近頃に婚活をすっぱりと諦め、生涯独身を誓った友人がいる。彼は生涯独身を宣誓するまでは複数のマッチングサイトを利用し、また婚活イベント・パーティーなどにも頻繁に参加していた。大学を卒業した早々には結婚を意識していたくらいだし、結婚願望は人一倍強かったように思う。

――ところが先月久しぶりに会った彼は、結婚どころか恋愛に対しても消極的というか、もはやそれに対する熱心な「アンチ」と呼ぶにふさわしい態度を示すようになっていた。食事をしながら、彼は憎々しげに自由恋愛や婚活パーティーに対する積年の憎悪を延々とぶちまけていた。

彼のあまりの変貌ぶりに、私は理由を尋ねた。すると彼は「マッチングしなかったことで、たんに縁がなかったのではなくて、自分の存在を否定されているような気持ちになってしまったから。もっといえば『お前の遺伝子が悪い』と言われているような気がしてしまって、怖くてそういうことができなくなった」と漏らした。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/bee32)

勤め先や年収だけでなく、歯並びや肌質も問われる?

「遺伝子が悪い」――聞きなれない表現だ。いったいどういう意味だろうか? 彼に尋ねると、このほどの「マッチング」に重要視されるのは「学歴・勤務先・年収」などの社会的・経済的ステータスはもちろんだが、しかしさらに「生まれ」とか「育ち」とか「家族構成」とか「認知・発達」とか、そういう「その人の先天的なもの」が問われる比重が高くなってきているような感覚が強まり、しだいに恐ろしくなってしまったのだという。

それはまさに、自分の努力ではどうしようもない「本質的な部分」にまで、他人からの値踏みするようなまなざしが注がれているような感覚だったのだという。

具体的には「歯並び(歯科治療歴)」「喫煙習慣」「肌質」「家族構成」「家族親族の仕事や学歴」さらには「部屋の綺麗さ」「保有する自動車の車種」なども尋ねられたという。

私はまるで社会学における社会階層論の質問項目のような印象を受けた。いったいだれが入れ知恵したのかはわからないが、勤め先や年収を尋ねるよりも人間を「リスク」として評価するのにはよほど実践的な要項ばかりで、逆に感心してしまった。

それらの項目は現在においてその人がどのようなコンディションであるかを示すだけではなく、むしろ「過去」どのような環境で育ったか、そしてそれによって「未来」どのような人物として社会的・文化的な再生産を行いうるのかの確度が高まるものばかりだからだ。